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三題噺もどき3

夜明け

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくにじゅう。

 


 心なしかひんやりとした風が頬を撫でた。


 さすがに、この時間は風も冷たくなっているようだ。

 久しぶりにと言うか、この時間に起きて外に出ていることがないので、気づかなかった。昼間の暑さばかりが目立つが、ほんの少しずつ夏は終わり始めているのだろう。

「……」

 なんとなく目が覚めて。携帯をいじる気にもなれずに、でも寝る気にもなれずに。

 部屋にじっとしているのもなんだかなぁと言う気分になってしまったもので。

 大人しくリビングでぼうっとテレビでも眺めておこうかと思いはしたのだけど、他の家族は寝ているからなぁと思い立って。

 どうせなら、外に出てみようと適当に置いてあったカーディガンを羽織って出てきた。

「……」

 寝間着はまだ半袖なので、その状態で外に出るのは憚られると思って、カーディガンを羽織ったのだが、丁度良かった。

 冷たい風は心地いいが、半袖のままでは寒かったかもしれない。

 まぁ、歩いてしまえば体温が上がって暑くなるかもしれないけど。

「……」

 適当にひっかけたサンダルの足音を響かせながら、歩いていく。

 特に行く当てなどないが、ちょっと軽くこの辺りを歩いたら満足するだろう。

 道路で良い具合に区切られているので、丁度いい目安になる。

「……」

 ゆっくりと歩きながら、あたりを見渡す。

 もう既に灯りのついている窓があった。アパートの一室だが、この時間から働きに行くのだろうか……それとも帰ってきたのだろうか……どちらにせよ大変そうではある。あまり早起きとかは出来ない方なので、早朝から動いている人を見ると普通にすごいと思ってしまう。今日はたまたま目が冴えただけだ。

「……」

 働いている頃は、朝なんていかに長く寝て居られるかというところがあったから。とは言え、あまりギリギリに起きると別の問題で精神的に疲労を抱えることになるので、さして遅くまで寝ていたことはない。家を出る2時間前には起きていた。

「……」

 とは言え、夜遅くに帰ってくるのが当たり前だったから、毎日寝不足ではあった。

 仕事から帰ってそれから風呂に入って夕食を食べてなんてしていたら、アッと言う間に日付をまたいでしまっていて。それから寝つきもたいして良くない時なんて眠ったらすぐに起きて―みたいな生活だったから。

「……」

 その日々が、不可抗力でその状態になっているなら、多少の諦めはついたんだろうけど。望んではいなくとも、自分の選択、自分の行動でその状態になっているからなんだか、救いようもない。

 寝つきがよくないのなんて学生の頃からそうだったんだから、仕事柄遅いのが当たり前なものにはそもそも就くべきではなかったのだ。その癖に自分でそんな仕事を選んで、毎日寝不足で。心身の限界を迎えて、今を迎えて。

「……」

 現状に至っているのだって、全部自業自得でしかないのに。

 なぜかよくわからないけど、何かに憤っているような自分がどこかにいて。

 もやもやとした、何かをずっと抱えている気がして。

「……」

 今日、こうして目覚めたのは。

 多分そういう、腹に据えかねているような何かが暴れそうになったからかもしれない。

 目覚めた瞬間に、ぐるぐると回りだす思考が止まらなかったからかもしれない。

「……」

 こういう時、目覚めの良さはいらないのだ。

 起きてすぐに気分が下がるような考え事なんて、誰もしたくないに決まっている。

 毎朝毎朝。脳内に流れる嫌な記憶と後悔なんて、望んじゃいないっての。

「……」

 誰かに吐き出しでもできたらいいんだけど。

 それはそれで、聞き手に嫌な思いをさせるのが嫌だし、自分のことを話すのは苦手だし嫌いなので出来ないのだ……なぜか知らないが目の奥が熱くなる。

 それができて居れば、現状に至っていないだろう。そもそも。

「……」

 明るくなりだした空には、白磁のような月が浮かんでいる。

 今にもかき消そうなそれは、数時間前までは暗闇を煌々と照らしていたはずなのに。

 それがまるで嘘のように、白く薄く、空に消えようとしている。

「……」

 いっそ誰にも知られないように。

 誰も気づかないように。

 消えてしまえればいいのにな。







 お題:不可抗力・白磁・月

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