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悪魔の骨

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 アンデッドだらけのダンジョンをベルとの連携を駆使してしばらく進んで行くと、分かれ道の前までやってきた。

 片方は何の変哲もないように見える普通の通路。もう片方は大きな鉄製の扉……つまり、この《アウロラの霊廟》のボス部屋が突き当りに見えている通路だ。


「ベル、止まれ」


 普通なら迷わず扉が見えるの方へと向かいたくなるような構造だが、ここには死にゲーらしい罠が潜んでいる。俺は原作知識が確かなであるかどうかを確認すべく、ボス部屋へ通じる通路へと一歩だけ進んで、即座に後退した。

 その直後、天井から棘付きの釣り天井が落ちてきて、ボス部屋への道を塞いでしまった。


(やっぱりこのトラップがあったか)


 ゲームの場合だと、この手のトラップは問答無用でプレイヤーを一撃死させるが、少なくとも俺やベルの耐久値なら即死は免れないし、走り抜けようにも釣り天井が落ちてくるのが速すぎるし、安全圏までが遠すぎる。


(本来ならもう片方の通路を進んでトラップを解除する必要があるんだが……)


 そんな面倒くさいことをしなくても、ここを通る方法がある。

 俺は釣り天井がキリキリと音を立てて、丁度いい感じの高さまでゆっくりと持ち上がるのを確認すると、【竜腕】によって巨大化した腕を万歳するかのように上げながら、釣り天井の真下に入り込んだ。


「っと……!」


 その瞬間、釣り天井は再び落下してくるが、【竜腕】を発動した俺自身がつっかえ棒の役割を果たし、串刺しにされながら潰されるのを防ぐことができた。

《エンドレス・ソウル》はリアリティが売りで、正攻法を使わなくても力技で攻略できる場面が多々ある。そして【竜腕】が生み出す圧倒的な膂力とリーチがあれば、魔力値やトラップの規模にもよるが、こうやって罠を無理矢理突破することもできる。

 

「よし、このまま進むぞ」


 俺は両腕で釣り天井を支えながら、ベルと一緒にボス部屋の目の前……釣り天井の範囲の外側まで出たところでようやく釣り天井を放した。


「ベル、頼む」


 そのタイミングでベルがポーチから光る液体で満たされた瓶を取り出し、その中身を竜化した俺の両腕や自分の片刃剣に振りかけると、刀身や両腕全体が白い光を発し始めたのだ。

 一定時間、アンデッドモンスター共通の弱点である光属性を付与する消費アイテムだ。ここまでは温存してきたが、ボスを相手にするなら使わない理由がない。


「これで準備万端……覚悟は良いか?」

「…………(コクリ)」


 ベルが頷くのを確認し、俺は重そうな鉄の扉を【竜腕】で軽々と開け放ち、中に入ると、そこには開けた空間の真ん中に鎮座する、全身が白骨化した大きな亡骸が青白い炎を纏いながら立ち上がった。


(来たな……ボーンデビルっ)


 その名前から察せられるとおり、生前は山羊頭で下半身は獣脚といった見た目だったであろう、身長三~四メートルはありそうな巨大な骨は、両腕にハルバード二本を持ってこちらに向かってくる。

 

「手筈通りだ! いくぞ!」


 ボーンデビルの右側に回り込みながら叫ぶ俺の言葉に応じ、ベルが逆の左側に回り込む。

 敵を挟み込むように立ち回り始めた俺たちに対して、ボーンデビルは両腕のハルバードを器用に駆使して俺とベルの両方に同時攻撃を仕掛けるが、ベルは速度を活かしきった立ち回りで攻撃を掻い潜り、俺は【竜腕】でハルバードをパリィし(弾い)た。


(よし、いける……!)


 ボーンデビルは攻撃力こそ高いが、スピード自体は並で攻撃も大振り。その弱点を補うようにハルバード二刀流を使いこなしているが、複数人掛かりで挟み込むように立ち回れば、それほど恐ろしい敵ではない。

 現にベルは攻撃をヒョイヒョイ躱しているし、石畳を叩き割る一撃も【竜腕】を使えばパリィできる。


(そしてこちらからの攻撃は容易に当てられる)


 攻撃を掻い潜り、間合いを詰めたベルがボーンデビルの顔面を集中攻撃し始める。

 火力こそ低いが、苦手とする光属性を付与した連撃だ。ボーンデビルは明らかに嫌そうにベルを振り払おうとしたが、俺はその隙を逃がさない。

 狙いは肋骨……その奥に守られた、アンデッドの青白い炎を発する巨大な結晶体だ。


「ぉおらぁぁっ!」


 体重を乗せ、大きく振りかぶった横薙ぎの一撃がボーンデビルの胴体に炸裂し、奴の巨体を浮かせて骨の欠片を跳び散らせながら、数メートルほど吹き飛ばした。

 

「随分効いたみたいじゃないか……これなら後、一~二発ブチ当てれば倒せるだろ」


 その言葉が事実と証明するように、ボーンデビルの砕けた肋骨は即座に復元されたが、その奥に守られた結晶体……核は大きく罅割れたまま。【竜腕】による高火力の一撃が、肋骨という盾を突き破って奴にダメージを与えたのだ。

 ボスだろうが雑魚だろうが、アンデッド系の倒し方は同じで核を破壊する事だが、ボスに限っては格がデカくて傍から見ての位置が分かるから、雑魚より戦いやすいという声もチラホラある。

 

(だが、《エンドレス・ソウル》のボスがこんな簡単に倒せるわけがない)


 俺の知識通り、ボーンデビルの周辺に黒い靄が発生し、そこから六体の雑魚アンデッドが現れた。

 ゲームだとボーンデビルはHPの半分を切れば雑魚を召喚する。いずれも火力が高く、倒すのも一手間かかるアンデッドを使役して数の利を生かしてくるから、俺はこのダンジョンの攻略を先送りしてきたのだ。


(だが今のボーンデビルの標的は俺に向いているはずだ……!)


 基本的に、モンスターというのは最後に攻撃してきた奴に意識を向ける。それはボスも例外ではないし、先ほどの一撃で俺は奴に大ダメージ与えた。

 つまりここからは俺とボーンデビルの一騎打ち。他の雑魚はベルに対処してもらうという流れってわけだ。俺はボーンデビルと真っ向勝負する為に、奴に向かって構えるが……ここにきて、俺は違和感に気が付いた。


(…………? 何だ……? 奴の意識が、俺に向いていない……?)


 ボーンデビルの様子がおかしい。核にダメージを与えた俺のことなど見向きもせず、ベルの方ばかりを見ている。

 まさかタゲ取りが出来ていなかった? だが有効打を与えたのは俺だ。ゲームの知識を抜きにしても、普通なら俺に注意を向けると思うんだが……?

 言い表しようのない不気味さを感じていると、俺の耳に信じられない音が届いた。


「……エ……ル……トリ……ア……」


 それは、確かにボーンデビルの口から飛び出した言葉だった。

 ストーリーボスでも何でもない、ダンジョンボスでしかないはずのボーンデビルが喋った事にも驚きだが、その呟きの内容も決して無視できない。よりにもよって、エルトリアとベルを見ながら呟いたのだから。

 

「‥…っ! しまったっ!」


 あまりの事に愕然としていると、ボーンデビルは雑魚を引き連れて猛然とベルの方に向かって攻撃を仕掛け始めた。

 しかもそれだけではない。ボーンデビルも、他の雑魚敵たちも、全身に纏う青白い炎をより一層激しく燃やしたかと思えば、移動速度が劇的に上昇したのだ。


(ボーンデビルが極稀に使う自己強化の上位互換、自身と味方の両方をパワーアップさせる自軍強化スキル……! ここで使うのか!?)


 あまりに発動確率が低くて無視していたスキルをこんなタイミングで使われると思っていなかった……!

 それでもスピードではベルが勝っているが、あの数は危険すぎる。回り込まれたら一巻の終わりだ。


「させるかぁああああっ!」


 俺は全速力で駆けながら、途中で道を遮った雑魚を薙ぎ払い、ベルとボーンデビルの間に割り込んで、繰り出された二本のハルバードに対処する。

 結果、振り下ろされた方のハルバードはパリィで弾けたものの、もう片方のハルバードによって繰り出された刺突は対処をミスり、穂先が俺の横腹を抉った。


「いっ……つぅ……っ!」


 強烈な痛みが脳に伝わり、生温い血が流れるのを自覚する。

 しかし、致命的なダメージではない。血が噴き出るから重症に見えるだろうが、実際は掠っただけで、内臓に到達するような傷じゃない。


「……っ! ……舐めんなっ!」


 過程はどうあれ結果的に、俺は二本のハルバードの間合いの内側に入り込んだ。

 この好機を逃さず、俺は響くような痛みを無視して、間合いを詰めながらボーンデビルの胸に掌底打ちをお見舞いする。

 普通の人間の手でやるのとは違い、鋭い爪が突き立てられる【竜腕】による掌底はボーンデビルの胸骨を貫き、俺はそのまま奴の核を鷲掴みにする。


「これで仕舞い……だぁあああああああああああああああっ!」


 そのままボーンデビルの体を力任せに押し倒し、奴の体を背中から地面に叩きつけると、周囲一帯の石畳が陥没しながら大きく罅割れ、大量の土埃が舞い上がる。

 当然、ボーンデビルもただで済むはずもない。奴の背骨は砕け散り、地面と竜の腕で思いっきり挟まれることになったボーンデビルの核は、俺の手の中で砕け散るのだった。







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