手品(途中、ウィルデルト視点)
「庭の芍薬が綺麗で、手折るのは可哀想だったけれど、君が喜ぶと思って」
鼻歌が聞こえる。なんの曲だろう?
私は毎日ただただ無意味に美しく着飾られて、椅子に座ってぼうっと窓を眺めるだけ。
「おや?昼食は食べなかったのかい?このスープは僕が好きなじゃがいもの冷製ポタージュなんだが…」
「ウィルデルト様、三日…経ちました。我が家から…クラウディア家から何かございましたでしょうか」
「全くもって何もない。恐ろしいくらいに静かだね。さあ、口を開けて」
今ではもう抵抗する気力も失せて、ぽかっと口を開ける。
だらだらとスープがドレスを汚した。
「美味いだろう?少々温くなってしまったかな…。さあ、パンも食べると良い」
小さく千切られたパンを口に押し込まれた。
「うっ…」
無性に涙が溢れて止まらなくなる。
汚れているのに、なんの抵抗もなくきつく抱きしめられた。
「泣かないで、ティファニー」
「狂っています、こんなの…正気じゃない…」
「だって、僕が君のことを好きだって言っても信じて貰えないから」
「それだけのためにこんなことをしているのですか!?」
「なら信じてくれよ!」
はあ、と息を荒くして、目を逸らした。
「ごめん、大きな声を出して」
立ち上がると、扉に向かって歩くウィルデルト様は、振り向くことなく言った。
「美味しいから食べて欲しい。勿論毒なんか入ってない」
以降、ウィルデルト様は部屋に来ることは無くなった。
私はただ、一枚一枚花弁を落とす芍薬を呆然と眺めながら、また日々を無意味に過ごすだけとなった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
音もなく、僕の左後ろに降り立つ者がいる。
「殿下、ご報告を。クラウディア家が俄かに慌ただしいようです」
「ほう?なら、僕から出向こうかな」
不思議だ、少しワクワクする。
全く面倒な主人を持ったばかりに、とでも言いたげなため息が漏れ聞こえる。
「殿下は、ティファニー様の魔法を解く気はないんですか?」
「当たり前だろう。ちょっと化粧しただけであの騒ぎ。冗談じゃあない。男がティファニーを見ているだけで、そいつを殺したくなると言うのに」
「大変拗らせてますね…」
「五月蝿いな。そうだケミリオ、ティファニーの話し相手になってやってくれないか?」
「俺も男なのですが…。やですよ、殿下に殺されるの」
「お前は僕の忠臣だからな、信頼している。それよりもティファニーのことを報告して欲しいんだが」
「なるほど、そっちがメインですね」
「今僕が行っても拒絶されそうだからさ。嫌われるくらいなら死んだ方がマシだ。それよりも僕の気持ちを疑われる方がもっと嫌だけど」
「…えっと…もう嫌われてません?」
「と、言うより恐れていると言う方が近いかもしれないな。僕が兄上の御母堂を殺したと思われているらしい」
「それは仕方ないのでは?巷で専らの噂ですから」
「噂など良い加減なものだ。母親を殺したのは他でもない、兄上だというのに。兄上が国王になったら、国は荒れる」
「そう言うウィルデルト様は国王の座など興味ないでしょうに」
「ないな、これっぽっちも。だがどうやら世間はそうは見てくれないらしい」
「まあ、俺はどこまでも貴方について行くだけです」
✳︎ ✳︎ ✳︎
コンコンコン、と窓をノックする音が聞こえる。
のそり、と椅子から立ち上がって見ると、そこには灰色の髪に褐色の肌の人がいた。
「…誰ですか?ここは王城です、こんな所を見られれば貴方はただでは済まされませんよ。即刻立ち去りなさい」
けれど、その人は胸ポケットから花を取り出すと、くしゃくしゃと丸めて握りつぶした。
手を開くと、途端にそれは白い鳩となり、空高く舞い上がって行った。
吃驚して、つい興味あり気に話してしまう。
「わ、すごい…それは、どんな魔法なのですか?」
「いいえ、一切魔法は使っていません」
「そんなわけがないでしょう?花が鳩に…」
ちっちっちと指を左右に振って、今度は短剣を取り出したので私は身構えた。
けれど、その人は短剣を飲み下したのだ。
思わず窓を開けて小声で叫んだ。
「ちょっと、貴方何をやっているの!?死んでしまうわよ!?」
屋根の上で蹲っていた人は、ゆっくり立ち上がると、にっこり笑顔になって両腕を広げた。
そのまま彼は後ろ向きに倒れたので、私は窓から手を伸ばした。
ここは三階だ。後ろ向きに落ちれば、大変なことになるだろう。
ひゅうと落下し地面に着く寸前、くるくると回転して、着地した。
私にブンブンと手を振ると、そのまま去って行った。
「な、なんなの…?」
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