表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

求婚をお断りします。

「求婚の件ですが、お断りさせて頂きたいのです」


 紅茶をおかわりする頃、やっと本題を切り出すことができた。


「…どうしてだい?ご両親が反対されたのかな?」

「いいえ!両親には求婚されたこと自体話していませんから…私の、独断です」

「ふぅん。なら僕は、ぬか喜びさせられた訳か」


 寂しげに落とされた微笑、私を見る目線、ゆらっと手を上げる動き、侍女が持って来た紅茶は下げられ部屋は閉じられた。


 ゾッ


 呼吸が浅くなる。


「ウィルデルト様…?」

「大方、僕が前王妃を殺したなどと吹き込まれたのだろう?」

「いいえ。初めて聞きました」


 冷静に対処しなければと思うほど、心が落ち着かなくなる。


「そうかな?だったらなぜ断るんだい?」

「私は…」

「顔に火傷があるから、とは言わさない」


 グイッと腕を引っ張られて、鏡の前に連れ出された。


「いっ…!!」

「見てご覧」


 耳元で詠唱した呪文に、鏡が波打った。


「目を逸らすな。見るんだ」


 私の顔の火傷の痕。

 その部分がどろどろに溶け出した。


「ひっ!!あっ!!!」


 マグマが溶け出すようにだらだらと、顔面を崩していく。


「…驚くと言うことは、初めて見るんだろう?これが、君以外が見えている君だよ、ティファニー」

「どういうことですか!」

「熱湯を被ったと言っていたね?これは熱湯なんかじゃない。魔力を込めて作られた、薬だろう」

「これが…これが、私…」


 なんと醜く、恐ろしいのか。

 疑問に思ってはいた、火傷の痕が顔に残っているとはいえ、ワインをかけられる程に嫌悪される理由があるのだろうか、と。


 がくり、と力なく鏡の前に崩れ落ちた。


「なぜ、なぜこんな私に求婚を?」

「これを取り去れば良いだけじゃないか。半分残った美しい顔を見れば元々美しかったことくらい分かる。まあ、求婚した理由はそれだけじゃないけれど」


 蹲る私に覆い被さる。


「退いてください」

「逃がさない」

「帰ります」

「愚かな。君がその火傷を負った原因を考えたら良い」


 原因。

 妹がポットを持とうとして、それがひっくり返って、火傷を……。

 義母が、義母が手当してくれた。

 あれは、軟膏?


「例え我が家の誰かが悪意を持ってこの顔にしたとして、なんのメリットがあると言うのですか!?」

「さあ?僕には分かりかねるけど。でも、そんな家に大事な君を帰す訳にはいかないなあ」

「閉じ込めて、どうすると言うのですか!?そんなことをしたら、ウィルデルト様とてただでは許されませんわ!その御身に関わるのですよ!?」

「そんなの大したことじゃないさ。ちょうど良い機会だと思うけどね、君の家の出方を見ようじゃないか」

「正気ですか!?」

「僕は正気だよ、いつだってね」


 私の醜く崩れている半面にくちづけした。

 それで、もう、抵抗する気力がなくなってしまった。


「…父に、仮面をつけるよう言われたことがあります。その時はなぜそこまでと思って…でも、それはこんなにも醜かったから、だったのですね」

「…君は綺麗だ」

「嘘ばっかり」

「治せばいい。魔法なら解除すれば良いのだから」


 でもそれは、その相手に魔法が返るということ。 母の顔が、崩れ落ちるということになる。


「…火傷の薬だと、そう言って塗っていたあれは、薬などではなかったのですね」

「かわいそうに、ティファニー。それでも家に帰りたいか?」

「もう、よく分かりません。ただ、妹には会いたいのです」

「…なら、顔が戻ったら会えば良いだろう?」

「戻りますでしょうか…?」

「戻る。解除すればね」


 ウィルデルト様は覆い被さったまま、私にくちづけした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ