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化粧ってすごい

 王室の、特に第二王子であるウィルデルト・スカイシルヴァ様付きの侍女はなんとも淡々としたものだ。

 手際よくドレスを着替えさせてくれるし、私の顔を見ても目を逸らさないし、臆することなく私の顔に化粧を施した。

 私に化粧をしたところで、化粧品を消耗するだけ勿体無いというものだけれど、ウィルデルト様の好意を無碍にもできまい。


「クラウディア伯爵令嬢様、仕上がりましてございます。どうでしょう、宜しいですか?」


 申し訳程度に鏡を見て結構ですとでも言えば良い、とそう思った。

 ちらっと見た鏡には、醜い火傷の痕が綺麗に隠された私がいた。

 それだけではない。美しく整った眉毛に温かみのある頬紅や口紅など、とてもセンスの良い今どきの仕上がりだった。


「これが、私…」

「コンシーラーとファンデーションで(ただ)れを隠させていただいたのですが、これほどとは……」

「た、(ただ)れ…ですか…」

「出過ぎたことをしましたでしょうか?」

「あ、いえっ!とんでもないです!綺麗にして頂きありがとう存じます」


 侍女は満足そうに初めて笑顔を見せると「では、」と言って、カーテンの向こうに待つウィルデルト様を呼んで、その布一枚を左右に引いた。

 振り向いたその人は、私の姿を見て固まっている。


「クラウディア伯爵、令…嬢……」

「あっ…なんだか照れますわ…」

「…やはり……なんと美しい…抱きしめても…?」

「いえ!それは!」


 私は熱い顔を下に向けて隠しながら、両手で制した。

 王子ともあろう方がしゃがんで私の顔を下から覗き込んで、ニヤリと笑った。


「君はこんなにも美しい、分かって頂けたか?」

「侍女の皆様のメイクアップ技術のおかげです。火傷の痕がすごく綺麗に隠れました。私や屋敷の者ではなかなかこうはいきません。それにしても、こんなにも綺麗に隠せるなんて…」


 ウィルデルト様はそれ以降口を噤んでしまった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 ウィルデルト様のエスコートで会場へと戻ると、やっぱり騒めきが起こった。

 いくら化粧をしても、相手が私なら騒めきも起きよう。

 当然と言えば当然だ。

 けれど反応は意外なものだった。


「だ、誰よあれ」「社交界にあんなに美しい方がいらしたかしら!?」「いいえ、見たことがありませんわ…」


(なんだか思っていたのと違う…)


「不思議そうな顔をしているね?」

「え、ええ…」

「社交界とはかくもおかしな世界だ」と言うと跪いて、「ダンスのお誘いをしたい。受けてくれますか?美しい人」


 強い視線で私を突き上げる様に見つめた。胸が痛い。鼓動が跳ねる。


「よ、よろこんで」


 なぜ感嘆のため息が漏れるのだろう。こんな私相手に。


 流れる音楽は鼓動の音を掻き消すのに丁度良い。 けれど、あまり近づかれると、胸の高鳴りに気が付かれてしまう。

 どうしてそんなに見つめるのだろう。

 化粧をして少しはマシになったから?


(でも…ウィルデルト様は、本当の私に求婚してくださった)


 このまま時間が止まれば良いのに。


 くるくる回る景色に見つけたマリアンヌは、放心した様に私を見ている。


(私だと、気がついていないのかしら)


 たん、と音楽の終了と同時に私の周りに人だかりができた。

 ワインをかけられるか、罵詈雑言を浴びせられるかと怯えていると、男性陣から次から次へとダンスのお誘いを受けた。


「君たち、待ちたまえ。彼女が困っている」


 人を割って入って来たのはアイゼン・スカイシルヴァ王太子殿下だった。

 王太子は私にすっと手を差し出すと、頭を下げて言った。


「願わくば、貴方のお名前をお聞かせください」

「えっと…?」と戸惑って気が付いた。王太子はパーティ開始後、すぐに妹とダンスを踊ったので私はまだ挨拶をしていなかった。

 ドレスの裾を広げて頭を垂れる。


「挨拶が遅れまして大変申し訳ございませんでした。ティファニー・クラウディアでございます」


しん、


(あれ?)


 誰も動かない。

 誰も言葉を発しない。

 こんなことは初めてだ。


「は、はは」と引き攣った笑顔が向けられる。

「レディはご冗談がお好きなようだ」

 王太子はその眉毛に怒気を孕ませている。


(冗談…ですって?それこそなんの冗談なの…?)


 困惑し、半歩後退したところで、ウィルデルト様が私の肩を抱いた。


「兄上、私が先ほどこのクラウディア伯爵令嬢に求婚したのは見ていたでしょう?…弟の求婚相手に声をかけるとは兄上も人が悪い」


 まるでホールに雷が落ちた様に衝撃が走った。


「なっ…」「ええ!?」「本当に!?」「嘘よ!」「何をしたらああなるんだ!」


 その場にいた全員の顔が、赤くなったり青くなったりしている。


 ウィルデルト様はそんな聴衆を横目に、「さあ」と言って私の手を取ると「今日はもう遅いから、退散するとしようか。馬車で送ろう」


 背中からいつまでもいつまでも色んな声が飛び交っていた。

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