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王太子という事実(アイゼン視点)

 私は王太子だ。

 その事実だけが私を強くした。


 私と言う世界を支える大木のような、私にだけ与えられた揺るがないもの。


 それが、今音を立てて崩れている。


「アイゼンを王族から除名する」


 父の、国王の声が響いた。

 あのウィルデルトさえも言葉を失っている。


(この国は終わった。私の人生も終わった。マリアンヌさえも失って、全てが幕を下ろした)


「父上、この国は滅びます…。ウィルデルトが国王になるなど…」


 辛うじてそれだけを言うことができた。精一杯の虚勢だ。


「貴様は何もわかっていないな。…そもそもウィルデルトは国王の座を望んではおらん」

「…は?おかしな事を仰る…」

「何も見えていないうつけだな。本当にお前を国王にせず良かったとすら思えてくる。これ以上がっかりさせるな、アイゼンよ」


 今度はウィルデルトが父の隣で発言した。


「僕は元より政に向いておりません。兄上が駄目なら僕をなど、そんな簡単な話ではありませんでしょう。時期国王の座は、従兄弟のライアン殿が相応しいかと」

「馬鹿な!!あいつはまだ十の小童じゃないか!」

「…なら僕に任せますか?」

「ぐっ……!!」

「…兄上は、自分以外は全て愚王になるとお考えのようだ。余程ご自身が優れていると?」

「当たり前だ!!!」

「…一人の女性に罪を被せるような男が、ですか?」

「だから!知らぬと…」


 その時だった。

 ふんわりとマリアンヌが床に突っ伏した。

 側に居た衛兵が立たせようと脇を抱える。


「うっ…や、やめて…」


 顔が真っ青だ。口を押さえてぐったりしている。

 ただならぬ気配に、マリアンヌは退出を許された。


(女というのは、ああやってちょっと弱いフリでもすれば良いのか。気楽なものだ)


 横目でそれを見送ると、父と対峙する。


「本日よりお前は王族ではない。対等に振る舞うな」


(クソッ!本当にふざけている!)


 歯を食いしばりながら、目線をやや下に落とし、15度頭を下げる。


「裁判官よ、続けなさい」


 その言葉に、やや慌てて木槌を持ち直している。


「アイゼン…スカイシルヴァ…に命令されていたという衛兵達を入廷させなさい」


 言いにくそうにしているものの、自分の名を呼び捨てにされて、奥歯を噛み砕いた。

 こんな侮辱は生まれて初めてである。

 そのうち、私の息がかかった衛兵どもが情けない顔をして入廷した。


「エリック、サハラ、リアン、メルバガ、ヨファン…以上五名か」


(そんな名前なのか)


 何しろ、おいとしか呼んだことがない。

 エリックとかいう一番長身の男が答えた。


「…俺は…アイゼン王太子に、その…地下牢に貴族のご令嬢が囚われていて、明日には処刑されるから好きに遊べと…言われて…」


 それからリアンという者が身を乗り出して言った。


「お前達もストレスが溜まっているだろうから、憂さ晴らししていいぞ、と」


(やめろ!)


「僕はヨファンと共に、気を失っているティファニー嬢を牢にぶち込めと言われました」


 ヨファンとメルバガは目を見合って頷いている。


(やめろ、余計な事を言うな!)


「毒を飲ませてあるから、多少抵抗されても手込めにするのは簡単だろうと、そう言われました」


 サハラと呼ばれた男がそう発言して、

「無礼者め!!侮辱罪だ!」

叫びながら掴み掛かろうとするが、押さえつけられて、あろうことか縄をかけられてしまった。


「クソが!!!」


 どこまでもふざけている。

 父はそんな僕を見て侮蔑の眼差しを向けた。


「静粛に!…次に、マリアンヌの母であるデビアント婦人を入廷させなさい」


 しん、と水を打ったように静まりかえる。

 扉の向こうに、薄汚れた暗い紫色のドレスが見えた。

 こつ、と優雅ではないが目を引く独特の歩幅。

 証言台に立つその姿は、年相応の中年女性だ。

 だが、なぜかその姿を追わずにいられない。

 注目の人物だからだろうか?


 いや、違う。


 その気の強そうな目線や、神経質そうな指先の動き。

 そうか気位が無駄に高いのだ。周りをピリつかせるような雰囲気を纏っている。


「さて、デビアント・クラウディア…いや、離縁されてデビアント・ブルターニュに戻ったな。早速だが問う。貴方は前王妃殺害のために、幼き日のアイゼンに毒薬を渡したか?」


 暫く無言で聞いていたデビアントは、ふっと口角を上げ、懐かしむような顔をした。

 それから、


「…ええ」


 あっさりその罪を認めた。

 それはつまり、私の罪の告白でもある。


「…随分と簡単に認めるが…」

「だって、この舞台から早く降りないといけませんでしょう?」

「…舞台?とは?」

「この世界は間違っています。ウィルデルト様とマリアンヌが添い遂げない世界は間違いなのです」


 ああ、イカレているんだなという空気に包まれる。

 こんな女の妄言は信用に値しない。


「ほらみろ!この女は狂っているんだよ!私に毒薬を渡しただと!?妄想の話さ!!」


 わっ!と叫ぶと、皆が目を泳がせながら、俄かに慌ただしくなった。


「静粛に!アイゼン、発言を許していない。控えなさい」

「なんだとッ!!」


 高い木槌の音が響いた時、白衣を着た医者がなにやら裁判官に耳打ちをした。

 裁判官は、目を見開いて驚き、小声で何やらやり取りをした後、大袈裟にため息をついた。


「アイゼンおうた…いや、アイゼンよ。マリアンヌは妊娠しているそうだ。それは貴方の子どもか」

「…は?」

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