一転
再開された審理では、まるで亡霊のようにぽっかりと目を見開いているマリアンヌと、かなりイラついたアイゼン王太子の姿があった。
裁判官が問う。
「マリアンヌ・クラウディア、そなたは姉、ティファニー・クラウディアに毒入りの菓子を食べさせたことに相違はないか」
「…ありません」
蚊の鳴くような声で言った。
「それは独断で行ったことか?アイゼン王太子殿下が仕組んだことか?」
「全て、私の独断です」
マリアンヌの主張は一転。自分だけに非があるという主張に変わった。
「では、アイゼン王太子殿下は無関係だと?」
「無関係です」
「ふむ…ううん…」
裁判官は唸った。
その時
「もういいであろう!私は無関係だ!!マリアンヌもそう言っているであろう!?こんな裁判さっさと閉廷しろ!無礼者どもめ!」
「…そうですなあ、しかし、アイゼン王太子殿下には前王妃殺害の容疑がかかっております故…」
「貴様!王族を愚弄するのか!」
立ち上がり、つかつかと裁判官に近づいてその胸ぐらを掴もうとした。
ウィルデルト様がアイゼン王太子の肩を引きそれを制する。
完全に頭に血が昇っているアイゼン王太子は、その手を払った。
「…兄上、今王族の恥を晒しているのは、ご自身ですよ」
「なにぃ!?」
振り返り、冷ややかな視線の面々をキョロキョロと見渡した。
「なんだよ、見るな!」
よろめいて、尻餅をつく様はなんとも情けない。 すかさずウィルデルト様が「おやおや、立てますか」と手を差し出す。
「くっ!」
立ち上がり、差し出す手を無視して法廷から出て行こうとした時だった。
「そこまで堕ちたか、アイゼン」
入廷してきたのは、国王陛下だ。
ウィルデルト様が頭を下げて、自分の座席を開け渡す。
「父上、お加減は?」
「うむ、心配をかけたな。問題ない」
言葉とは裏腹にため息をつきながら着座する。
それから胸の辺りを押さえて何度も呼吸を整えた。
「父上!マリアンヌが自白しましたので、これ以上この無益な裁判は不要です!終わらせてください!」
アイゼン王太子の喚きを、国王陛下は視線だけで制した。
「それは…己の心がけ次第であろう?」
「仰る通りでございます」
ウィルデルト様は頭を下げて同意した。
「冗談じゃない!まだ私が母君を殺したなどという妄言を信じていらっしゃるのですか!?」
「できれば信じたくなかったがな。己が潔白であろうがなかろうが毅然とせよ。見苦しい。どうやら、王族であるという矜持も捨てたようだな?アイゼンよ」
「…父上は…何をしにいらっしゃったのか…」
ぼそりと言った言葉さえも耳聡く聞こえたらしい。
「…お前はどんどん酷くなっていく。本当のお前はそんなにも醜いのだな…」