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ウィルデルト様の気遣い(後半、マリアンヌ視点)

 一人一人が呼び出され、国王陛下より直々に調べが行われた。

 国王陛下の、その威厳の前に、潔白の身であろうと身震いがした。


 どの人もかなりの時間をかけたらしい。私と父は一時間ほど要しただろうか。中でも一番長かったと思う。

 汗を拭いながら退出した私は、ウィルデルトや父上がそこで待っていてくれたことを知る。

「やあ」

と言って片手を上げたウィルデルトは父同様狼狽していた。


 予定ではこの後、どの様な沙汰とするか王室派と貴族派の話し合いが行われる筈であったが、国王陛下の体調が優れないということで延期となった。

 ならば、アイゼン王太子もマリアンヌもそれまで牢の中で暮らすのだろうか。


「疲れたろう。今日はもう遅いし、王城に泊まっていくといい」


 ウィルデルト様の提案に、父は酷く恐縮した。

 けれど、ウィルデルト様も一歩も引かない。

 そんな二人を見ていて、意外と気が合うのかも知れないなどと思う。


「お父様、ここはひとつ、お言葉に甘えませんか?」

「い、いや、しかしだな…」

「また明日も早くに登城することになるかもしれませんし。それに、一度この三人で話した方が良いのでは…私も何が何やら…」


 そんな訳で、一晩王城でお世話になることになった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





「さあ、こちらのオイルを使って湯浴みを」「次はこちらに着替えていただいて」「晩餐の前に薄く化粧を施しましょう」


 侍女達が、あれよあれよと身支度を整えてくれ、広間へと通された。

 そこではウィルデルト様と父がウィスキーを飲みながら何やら話していた。


(お邪魔かしら)


 などと思いつつも、「お待たせいたしました」と二人の前に出てカーテシーをした。


 父もウィルデルト様もこちらを見て、呆けている。


「あの、何か?」


 父はウィルデルト様に向き直って頭を下げた。


「あの顔の爛れを直していただき、改めて感謝申しあげます」

「…僕はティファニーの美しさを信じていました。それよりもクラウディア伯爵こそ、勇気ある告白に感謝申し上げる」


 父はぎゅっと手を握ったままだ。


「ティファニーよ、ウィルデルト様は本当に素晴らしいお方だ。お前は良縁に恵まれたな…」


 というが、監禁されたことが帳消しになる訳でもなく、思い出して、ちょっとだけ苦笑いを浮かべた。


「あの酷い夕立の日に、マリアンヌとお前がいなくなって…聞けばティファニーは囚われたと。ウィルデルト様が我が家を訪ねられてな。ティファニーの潔白を証明してほしい…つまり、アイゼン王太子殿下は我が家に訪れていないし、ティファニーも王城に訪れていないことを発言する様頭を下げられたのだよ」

「え!?」


 ウィルデルト様はぽりぽりと頭を掻いている。


「僕の覚悟よりも、父君の覚悟の方がずっと重かっただろう。墓場まで持っていくつもりだった母君の秘密を、暴露までされたのたからな」


 父は、ぬるっと顔を手で拭った。


「ティファニーがずっと家にいたことの証明は、残念ながら私には難しかった。けれど、ウィルデルト様が、アイゼン王太子殿下の息がかかった衛兵たちを捕らえてくれたことで、様々な証言が取れるだろう。それから、我が家の侍女の中にマリアンヌに命令された者がいる筈だと…」

「それは私に毒を盛った?」


 父は目を合わせずに頷く。

マリアンヌが菓子作りなどできるはずもないのだから、あの毒入りのチョコレートフィナンシェを作った者は屋敷にいるのだ。

 父の話では、その侍女も特定し、捕らえられているそうだ。最近新しく雇用した内の一人だという。


 ウィルデルト様は私を覗き込んで、気遣うように肩を抱いた。


「それで、ティファニーには酷なことを言うが、その侍女の証言が一番重要になってくる。証言してもらう代わりに減罰するという条件を提示しても良いだろうか」


 これにはもう、頷くしかないだろう。

 決して許せないけれど、それよりも、まずはアイゼン王太子を手に掛けようとした事実はないこと、他ならぬ私の身が危険に晒されたことを証明しなければなるまい。


 暫くして運ばれてきた晩餐はどれも美味しかったけれど、心が沈んでいるせいか半分も入らなかった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





「アイゼン様!!!アイゼン様!!!!出してよ!アイゼン様に会わせてよ!!」


 がしゃがしゃと格子を揺する手を、杖で叩かれた。


「あっ!!!!手首が折れたわ!!痛い!!!痛い!!」


 それでも衛兵たちは一瞥をくれるだけ。

 どうして私がこんな目に。アイゼン様は私に嘘をついたの?

 本当に貴方とお母様が前王妃様を殺めたの?

 なら、私に近づいた目的は何?


「…お母様も、アイゼン様も、私を利用したかっただけなのかしらね」


 ぽそっとそんなことを呟くと、まるで誰かが真実を伝えてくれたかの様に感じて、笑ってしまった。


「ははははははは!!!!!あはははははは!!!!馬鹿みたい!!馬鹿みたいだわ!!!!!」


 衛兵たちは狂者を見る目でこちらを見ては、目を逸らした。

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