断罪を
「ティファニー!マリアンヌ!!すまなかった!!全て私が悪いのだ!!」
父が突然私たちに向かって頭を下げた。
民衆たちはことの行く末を見守っている。
その時、あのマリアンヌが冷静さを欠いて、叫んだ。
「お父様!?今頃なんだと言うのですか!?お姉様はアイゼン王太子殿下を手にかけようと…」
「黙れ!!!…マリアンヌ、お前は一体どうしてしまったのだ…。あんなに姉さんのことを慕っていたじゃないか」
「ええ。そうね!でもそれは、醜いお姉様の方で、この人はお姉様でもなんでもないわ!!」
父は自然と地面に膝をついた。
「お前は、母親と…デビアントと同じだ。…私は今ここに告白する。デビアントは幼いアイゼン王太子殿下を唆し、前王妃様に毒を……!!」
今、何と言ったのだろう。
お母様が、アイゼン王太子殿下を唆したとそう言ったわ。
(なら、前王妃様が亡くなったのは…)
そこにいた、全員がアイゼン王太子殿下の顔を見た。マリアンヌでさえ。
「ア、アイゼン様?…前王妃様を殺めたのはウィルデルト様と…」
揺さぶられた腕を振り解いて激昂した。
「っっ!!!!偽りを申すでない!!なぜ私が母を殺すのだ!あれはウィルデルトの仕業…」
アイゼン王太子殿下は、一瞬、記憶の海を泳いだらしい。
言葉に詰まって、過呼吸気味になりながら辺りを見回す。
「わ、私は、知らない。知らない!!!」
そこへ、大きな太鼓の音が響いた。
国王陛下がいらっしゃったのだ。
なんという威厳。
ここにいる全ての人を圧倒させる覇気。
玉座に座るだけの動作なのに、誰もが静まり返って、国王を見つめた。
「…さて、今の話は本当かクラウディア伯爵」
「は、はい!!誠でございます」
「偽りを申したら、首が胴から離れることになるが…覚悟の告白か?」
その威圧に、父はごくりと生唾を飲み込んで頭を垂れた。
「偽りなどではございません。妻は…いえ元妻は今、王城の牢におります。どんな手を使っても吐き出させて構いません」
「…そなたの妻だが?」
「それ以上に、私は娘達が大切ですっ!妻とは離縁致しました…けれど、だからと言って無関係と割り切れませんでしょう…。これは私が成さなければならないことです」
「なるほど…。証拠は、あるのだな?」
父は、震える手で懐から一枚の紙とそれから小瓶を差し出した。
「久しぶりにワイン蔵に行きまして、古いワインを手に取りましたら…奥の方にこれが隠されておりました」
衛兵の一人が受け取り、国王陛下の元で跪き紙を読み上げた。
「クラウディア伯爵夫人へ。
この薬品は、服薬から発症まで五年の歳月を要します。
故に、服薬した際の証拠などは確実に隠蔽でき、殺める側のアリバイ工作も難しくありません。
しかし、ただ一つだけ注意があります。
コーヒーや紅茶などのカフェインと相性が非常に悪く、食事に混ぜる必要があります。
また、相当量を与える必要があります。
追伸、読み終わったらこの紙は燃やして捨て、瓶は地中深く埋めてください。
随分と掠れておりますが…そう書かれております」
「ほう?投薬から発症まで五年を要する薬か…」
アイゼン王太子殿下が叫びながら、国王陛下の元へ跪いた。
「こ、こんなこと、あり得るわけが…あの者は偽りを申しております!!私は知りません!私はお母様を殺してなどおりません!!」
「…アイゼンよ、王たる者どの様に振る舞うべきかと、幼い頃からお前に何度となく言ってきたが…覚えているか?」
「は、王たる者、常に冷静に、己の危機である時こそ、大きく構えよ、と」
「貴様の今の振る舞いはどうだ」
「…え?……あっ…」
「…アイゼンを連れて行け」
「ち、父上!!」
それでもなお、縋りつこうとするアイゼン王太子殿下の両脇を衛兵が抱えた。
「無礼者!!離せ!離せぇ!!!父上!!!私は何もやっていない!!何も!!!」
わあわあと叫びながら、ずるずると引き摺られて行った。
国王陛下はギロリとこちらを睨んだ。
「ティファニー・クラウディア嬢、息子がすまなかった。この通りだ」
頭を下げられて、大慌てでそれを止めた。
「どうか、頭を上げて下さい!!ウィルデルト様が助けてくださいましたから」
「どうやらそうらしい」
ウィルデルト様は、跪いたまま、表情を変えない。
「それから、マリアンヌ・クラウディア。どうやらお前も一枚噛んでいるらしい」
マリアンヌは頽れてブルブル震えた。
「えっ…わ、私、だって…お、王太子殿下の命令なら断れる訳が…」
「ふむ、そうかも知れないな。ならばなおさら詳しい話を聞かねば」
国王陛下は恐ろしく笑った。
衛兵が脇を支えても、なかなか立ち上がろうとせず、そのみっともない去り際にため息をつくしなかった。