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なぜこんな目に

 目が覚めると、私は何故だか牢の中にいた。


 じゃらついた鎖の音が、ただ困惑だけを生み出す。


「こ、っ…っっ!!げほげほげほ!!!!」


 咳き込むたびに吐血して、呼吸すらも苦しい。


(なんなのよ、これ)



 かつかつかつ、

 とてもゆっくりとした足音が近づいてきた。


「ご機嫌麗しゅう、ティファニー殿。お目覚めかな?」

「ア、…げほげほ!!!」


(アイゼン王太子殿下!)


「ふぅん?なかなか良く効いたらしい。君が飲んだのは言葉を封印する薬さ。喋ると吐血するだろう?」


 ひゅうひゅうと息をするだけで精一杯だ。


(言葉を、封印…それはつまり魔法で作られた毒薬ということ…?)


 アイゼン王太子殿下は、そんな私を思い切り見下して、


 笑っている。


「ゾクゾクするな。まさか、妹に一服盛られるとは思ってもみなかっただろう?マリアンヌは本当に良い女だなあ、どんどん好きになる」


(本気で言っているの!?)


「な、っっっ!!!げほげほげほ!!!」

「ほら、喋ったら血を吐くのだって。良い加減学びたまえ。うーん、なぜこんな所に?なぜマリアンヌが?何故私がこんな目に?言いたいのはそんなところか?」


 半月型の目が、松明の光を反射して怪しく恐ろしくギラついている。


「そんなものは知らなくて良い。君の疑問を解消するつもりはない。君は明日処刑されるのだからな。それまで自分の頭で思考したまえ。ちょっとくらいは思いつくのじゃないか?そうだ、明日までの暇つぶしだと思えば良い」


 そう言うと踵を返して、ひらひらと手を振った。


「ではまた明日、断頭台でな」



 処刑

                 断頭台

   マリアンヌが

           毒を盛って


      アイゼン王太子殿下が



 頭に恐ろしい単語だけが犇めいて、気を失った。




 再び目を開いた時、格子が付いた窓の外は、夜だと教えてくれている。

 そして、鎖が重たい現実を容赦なく知らせてくれる。


(明日、私は処刑される。本当に?)


 マリアンヌに毒を盛られたのは紛れもない事実だ。


 きっと、アイゼン王太子と結ばれない運命を嘆いて…

 …それだけかしら。ううん、それは違う。

 そんな事のために私に毒を盛ってまで処刑する意味などない。

 ただ殺すのではない、処刑なのだ。

 つまり、処刑をする事に意味があるのだ。


 これにはアイゼン王太子殿下も絡んでいる。彼の言葉から推し量るに、きっと首謀者はアイゼン王太子殿下だろう。


 妹を、愛した女を使ってまで処刑させようなんて、本当にマリアンヌは愛されているのだろうか。

 そんな事を考えてしまうけれど、今はそれどころじゃない。

 まずは自分の身の振り方を考えなければ。


 大方、お母様の罪を私になすり付けて、更にはウィルデルト様を失脚させようなどという魂胆なのだろう。

 今頃、ウィルデルト様はどうされているのだろうか。


(ああ、私は馬鹿だ)


 この期に及んで。

 きっとウィルデルト様が助けに来てくれるだなんて事を期待している。

 助けになんか来ないだろう。来るわけがない。

 そもそも、ウィルデルト様とて無事であるという保証はないのだから。無事だったとして罪人となった私を助けに来るなど、あり得ない。

 私は今、あなたはどうか無事でいてと祈るほかない。

 そして、私とて大人しく首を差し出すつもりは、ない。


「あ、っっ!!!げほげほげほ!!!!」


 じわ、と血の味が広がる。


(なるほど、何も喋らせない為の)


 用意周到でつくづく嫌になる。

 計画的だ。



 見上げた窓の外に、月が煌々と輝いていた。






「ティファニー・クラウディア!!牢から出なさい!」


 気を失っていたらしい。もう朝なのかと思って窓を見ると、月がまだ輝いている。


(何だと言うの?)


 出なさいという割には、無理やり引きづり出される格好で連れ出された。


「勿体無いなあ。こんな別嬪の貴族令嬢が明日には首と胴が離れてしまうなんて」


 放り出された先には、沢山の衛兵達がニヤニヤしながらこちらを見ている。


「!!!!!」


 後ろにいた衛兵が、私の腕の鎖をぎりぎりと引き上げる。


「あっ!!!げほげほげほ!!!」


「うわ!こいつ血を吐きやがった!」「おいおい、やばいんじゃないのか?」

「なあに、明日には死ぬんだから問題ないだろ?」


 その言葉に、「そうだな」「やっちまおうか」などと言って男達が近づいてきた。


(助けて!!)

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