まるで絵画のような二人(マリアンヌの母視点)
なんて美しい少年なのだろう。
あの美しい少年は、我が娘にこそ相応しい。
国王の左隣に座る、あの少年と娘とを何度も何度も見比べる。
ああ、ほらすごくお似合いだわ。まるで絵画よ。
「キエナ様。我が娘は、親の欲目を抜きにしてもこの国随一の美しさでありましょう。ご子息様の将来の伴侶にお考えいただけませんでしょうか?」
「ほう?器量良し、とな?」
「ええそれはもう」
「そなたの娘は二人いよう?」
「夫の子がおりますが、私の子はマリアンヌだけでございます」
王妃殿下が主催する舞踏会には、国王陛下の側室のキエナ様も、控え目なドレスで会の花を添えている。
扇をパチンと閉ざした。
「…美しさなど、二の次じゃ」
「え……」
「美しさの他に、我が息子に相応しいと思う理由を述べよ」
「ブ、ブロンズの髪と碧眼で…ダンスを踊れば会場の花となり…どんなドレスも似合いますわ」
「…もうよい、クラウディア伯爵夫人。よく分かった」
「お分かりいただけましたか!?では早速二人を会わせて…」
「そなたは上部だけが大切なのだな。自分の娘の内面にすら目を向けたことがない。愚かしいことじゃ」
「何を仰って……」
「美しさなど、人の数だけ正解があると言うことじゃ。…そこの。息子を呼んで参れ」
控えていた執事が「すぐに」と答えて、本当にすぐに連れてきた。
近くで見ても、ため息が出る美しさだ。
まだ幼い少年だというのに、気品が滲み出ている。
「ウィルデルト・スカイシルヴァ様にお目にかかります。デビアント・クラウディアと申します」
「はじめまして…クラウディア夫人」
幼い少年特有の、高い声だ。
「ウィルデルト、この会場の中でお前が一番美しいと思うご令嬢は誰じゃ。指をさしなさい」
「…?母上、僕には良くわかりません。それに、そういう物差しで人を見るのは好きではありません」
「だ、そうだが?」
キエナ様は、強い目線を私に向けた。
だが、ここで引き下がるわけには行くまい。
「それは、まだウィルデルト様が幼い故のこと。長じれば、好みのご令嬢もできましょう」
キエナ様は目を細めた。
ウィルデルト様は「ならば、」と言って会場を見渡した。
「…ああ!あのご令嬢が気になります」
「ほう?それはなぜ?」
きっとマリアンヌだと思って見たら、それは
なぜかティファニーだった。
以降、ウィルデルト様は信じられないくらい饒舌に語った。
「あのご令嬢は、王立図書館でよく見かけます。本を読んでいる時も姿勢が良くて、すごいなって。僕はすぐ前屈みになってしまいますので…見習いたいです。読んでいる本は難しそうなのばかりですが、彼女に追いつきたくて同じのを借りました。それから、真剣に読んでいるその横顔を、ずっと見ていたくなります。これが見惚れるということなら、彼女は美しいのだと思います」
「ほう?そんな話は初めて聞くぞ。微笑ましいことじゃ。…?クラウディア伯爵夫人、いつまでそうしておられるのじゃ?せっかくの舞踏会、存分に楽しまれよ」
血の気が引く。
何の話をしているのだろう。
ティファニーの方が美しいだって?
誰がどう見たってマリアンヌが美しいに決まっているじゃないか。
ウィルデルト様の隣はマリアンヌでなくては、マリアンヌの隣はウィルデルト様でなくては、完璧な美しさではない。
そんな欠けた世界が存在して良いわけがないのだ。
わなわなとした震えが収まらない。一人バルコニーで風に当たった。
そんな私を、薄笑いを浮かべて見つめる女がいたことに、私は気が付かなかった。