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出会い

 幼い頃、顔の半分から肩にかけて火傷を負った。だからなのか、鏡を見るとつい対面している自分自身を睨む癖がついた。


 私はティファニー・クラウディア伯爵令嬢。

 幼き日、腹違いの妹、マリアンヌが熱湯の入ったポットをひっくり返してしまい、私はそれを庇って大火傷を負った。

 火傷の痕は今でも痛々しく残り、私と目を合わせて話す者は社交界にいない。

 外に出れば、いつだって憐れみの視線が注がれた。


 父から「仮面を被ったらどうだ」と提案されたこともあったけれど、どうして私自身が私を偽って生きていかなければならぬのか理解できず、今でもありのままの姿で何にでも参加した。

 マリアンヌの実母である、父の後妻は私への後ろめたさからなのか、私との接触を極端に嫌った。


「お姉様!今度、王太子殿下が主催する王城でのパーティは勿論行くでしょう?私、お姉様とお揃いのドレスを着たいのだけれど、どうですか?これから仕立てに行きませんか?」

「ええ、勿論よ。お揃いなんて嬉しいわ」


 こんな事ができるのも、姉妹の醍醐味。

 だから早くに亡くなった母に代わって、私に妹を授けてくれた義母には感謝しているのに。


「そうと決まれば」


 きゃっきゃとお茶菓子を籠に入れて馬車に乗り込んだ。


「ところでお姉様、デザイナーはお決まりでして?」

「もちろんだわ」

せーの、で声を合わせる。

「「リーベン・シャルル!!」」


 姉妹して、初めての旅行みたいに大はしゃぎ。


 御者が件の店の前に馬車を停めたので、妹に続いて私も降りた。


 その時、「危ない!!」という声と共に私の身体は誰かに抱きしめられた。

「っ!!!!」

 突然のことに声も出せず身体を硬直させるしかない。

 目の前を、乗り手を失った荒馬が走り去っていく。

 馬は腰を抜かした幼児に向かっている!

 悲痛な、泣き喚く声。


 私を抱き竦めるその人から離れて、工具店の前に置いてあった縄を一つ掴むと、ループ状に結んで素早く投げた。


「きゃああああ!!」


 大きな悲鳴。

 幼児を踏む寸前、馬の首に掛かった縄を引っ張る。

 馬は嘶き、後ろに後退した。


「どなたか!お力を!」


 そう叫んだけれど、みな尻込みしてしまう。

 私を助けれくれた貴族の男性が、一緒にロープを引っ張ってくれた。

 馬は暴れて何度も嘶いていたが、やがてその貴族男性が近づき、何度か頬を叩いたり背中を叩いたりしている内に落ち着いたらしい。

「ブルブルブル」と頭を振って男性の胸に頭をくっつけた。


 やがて、後方から大柄な商人が走ってきて

「ああ!良かった!!ご迷惑を…申し訳ありません!」

と息も切れ切れに馬を引き取った。

「あのご令嬢の機転で大事はなかった。幼児も巻き込まれるところでしたよ、気をつけられよ」

と窘められたので、何度も頭を下げていたが、頭を下げるべきは他にもいよう。


 私はすっかり腰が抜けて放心している幼児に近づいて

「大丈夫?」

と聞いた。

「あっ…わ、わ、バケモノ!!!うわああああ!!!」

とより一層泣かれてしまった。

 店で買い物をしていたらしい女性が出てきて驚いている。母親なのだろう。

「うちの子に何を…」言いかけて私の顔を見るなり、子どもを連れてさっさと行ってしまった。


 こんなことは慣れっこである。



「ご令嬢、ありがとう。僕だけではどうにもなりませんでした。失礼でなければ、お名前を…」

「…私の名前など、お耳汚しになるだけですわ。こちらこそ、助けていただきありがとうございます。ぜひお礼をさせてくださいませ」


 私はお辞儀をしたまま顔を上げなかった。


「お姉様!!!大丈夫!?」


 店の中で避難していた妹が駆け寄ってきて、私に抱きついた。

 それで体制が崩れて私の顔をその人に見せてしまった。

 その人は私の顔を見たまま、固まっている。


「姉を助けてくださってありがとうございます」


 マリアンヌは何度も頭を下げた。


「そんな…気にしないでほしい、本当に」


 その人は、ぺこりと一礼すると、その場を去って行った。

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