皇女様の三人の花婿候補達
上皇陛下のセヴェイの婿選びから候補者三名と娘フェルディアーヌ皇女殿下のお見合いがセッティングされる事になりました。
四話完結
朝の陽ざしが差し込み、小鳥のさえずりが聞こえてくるダイニングルームで唐突にその話題は始まった。
「それでな…。七か月前に倒れただろう……
それで…私も何かあった時…そろそろなぁ……御前の婿をな……。どうだろうか?結婚については」
セヴェイは朝食の時間になんの前振りもなく突然娘を前に結婚の話題を出してきた。
動揺しているのか話の文脈がまったくあっていない。
フランツは隣で顔に爆縦線入りまくりの顔で二人を見て立ち尽くしている。
上皇陛下いまですか?
心の中で
「説教したい」
と思ったが本当には言えない辛さを耐えていた。
フェルディアーヌは突然の父の自分の結婚の話題を出されてきょとんとした顔で父を見ている。
「けっ…結婚?」
フェルディアーヌのナイフとフォークの手が止まる。
「いや。いやまあぁ嫌ならいいが。まぁいい人がいればな。
まぁ結婚してもここを出ていくわけではない。
婿養子だ。婿養子だから……フェルはここでずっと過ごせるぞ。」
汗だくで娘に話している。
「……お父様……お父様が…認められた方なら……」
少し伏し目がちに答え、オレンジジュースを口にした。
「そっ…そかあ。勿論ちゃんとした者ばかりだ。
そこは大丈夫だ。んっ。そっ……そっか…そか」
激しく頷きながら何度も何度も頷いてゴクゴクと水の入ったグラスを一気飲みした。
お父様。
私が結婚を拒否した方が嬉しかったのかしら?
ひどく動揺されているわ。
そう思いながらフェルディアーヌはフォークで優雅にサラダを口にした。
いつもなら和やかな朝食のひと時に変な緊張感が漂う。
「陛下。皇女殿下にパーティーの件をお話になられては?」
ナイスだフランツ。
「そうだ来月の一日にこの離宮で小さなパーティーを開催するぞ。
宮殿の皇女達も呼んでな。その時に婿候補達も呼んであるから。
気にいった者がいれば教えてくれ。
大丈夫だ。しっかりした者ばかりだからな
何も心配入らないからな」
「はいお父様」
こんな感じで表向きパーティー裏向けお見合いの会は開催の運びとなった。
この離宮でパーティーの開催など考えもしなかった。
静かに穏やかな生活に華やかなパーティーとは無縁だったからだ。
執事長のフランツは感無量で会場の用意を指示している。
今回は昼間のパーティーではあるが、離宮では初めての為に宮殿から経験のある執事と侍女が派遣されおり本当に初めての華やかさだ。
これもエルミエ皇后陛下の気配りのおかげで事なきをえました。
本当に皇后陛下は頼りになります。助かります。
昼間なので季節の花々が飾られ、まずは立ったままの
ウエルカムドリンク歓談タイム
↓
歌劇鑑賞会
↓
ティーパーティー
庭の案内(子息を皇女殿下が案内・顔見世一)
庭の案内(子息を皇女殿下が案内・顔見世二)
庭の案内(子息を皇女殿下が案内・顔見世三)
↓
終了
というスケジュールだ。
招待客は残っている皇后陛下の少し下の皇女殿下とと皇太子妃殿下との幼いお子様
すでに嫁いではいらっしゃるが、年の近い公爵夫人、侯爵夫人の数名も選ばれて参加されておられる。
今回は皆が緊張するので、陛下は出席されません。
始終報告はさせられだろうと少し疲れなぁ。
気苦労の多い宮仕えだ。
マリーの髪を解く仕草がいつまよりも丁寧に扱っているのがわかる。
薄いブロンドを今日は緩く三つ編みにして右前でたらりと下げ、所々造花のピンク色の薔薇を挿している。化粧は控えめに、ドレスは少し濃いピンク色のシフォンのフアフアとした生地に刺繍で、薔薇の花が描かれている。
「本当に皇女殿下の美しさを際立ててくれるデザインで。
ぴったりです」
自分の事のように嬉しそうにしている皇女付きの召使マリエッタはウキウキしているわ。
今日はお父様がセッティングされたお見合い兼ねてのパーティーです。
主催は私フェルエンティーヌです。
初めてのパーティーの主催、初めてのお見合い。
「マリエッタ
近くにいてね。」
自分でも心細いのか。
潤んだ瞳でマリエッタを見つめてしまいました。
マリエッタのテンションが更に上がったみたいです。
「大丈夫ですよ。
このマリエッタ。
しっかり殿下をお守りします」
「ありがとうマリエッタ」
ニッコリと微笑むと今度は執事長が部屋をノックしました。
「皇女殿下
そろそろエントランスに。
順におつきになります」
「えぇ。わかったわフランツ」
ゆっくりと私室をでて会場に入り招待客の到着を待ちました。
まずアレクサンドロヴィナ公爵夫人がバルヴィネス侯爵夫人を伴ってお越しになりました。
お二人とも既婚者でいらっしゃいますが、年が近いのでお父様がご招待してくれました。
夫のアレクサンドロヴィナ公爵の義理の姉様とバルヴィネス侯の妹様は昔皇帝であるお兄様と共に戦ってバルヴィネス侯の妹君は戦死されてしまわれたの。
招待も思いもひとしおだとお父様がおっしゃって強く招待客に入れられたそうです。
「御機嫌ようアレクサンドロヴィナ公爵夫人 バルヴィネス侯爵夫人
今日はお越しくださりありがとう」
お二人とも華美過ぎない上品なドレスにとても感じのよい温かみのある方です。
「初めましてフェルディアーヌ皇女殿下お招きをありがとうございます
エレナ・ディア・アレクサンドロヴィナでございます」
まずはアレクサンドロヴィナ公爵夫人がそういうって領地で栽培された美しい大きな百合が両手いっぱいに贈くってくださいました。
「とても綺麗 素敵 後のティーパーティのテーブルに飾りますね」
頬がほころびます。
「初めましてルナ・ディア・バルヴィネスでございます。
フェルディアーヌ皇女殿下お招きをありがとうございます」
バルヴィネス侯爵夫人が続き柔らかな微笑みと共に領地でとれた珍しい果物の籠を持参くださいました。
外国の果物も一緒に入っていて大変珍しいんだそうです。私も見た事がありません。
「ありがとう 後で皆様に振舞いますね。美味しそうです。」
お二人を会場に置かれたテーブルにご案内します。
まずはウエルカムドリンクでお出迎え、お昼ですし雰囲気的にアルコールは省きました。
グラスにはこの辺りでとれる発酵前の葡萄のジュースを炭酸水で割ったドリンクをお出しします。
「まぁ美味しい」
「本当に」
お二人の嬉しそうな顔が見れて嬉しいです。
そのうち会場には次々と招待客がいらっしゃいました。
姪のエカテリーナ・マリア皇女とクリスティーネ・ルナリア皇女、そして甥の妻アレクセイ皇太子妃のマリアティーヌと乳母に抱かれた小さな皇女ルティアナを連れてが到着です。
姪二人は私よりも四・五歳下で、ルティアナはまだ生まれたばかりです。
「素敵なパーティーにお招きありがとう」
「素敵なパーティーにお招きありがとう」
「素敵なパーティーにお招きありがとう」
そう言って
家族なのでハグして挨拶です。
このひと時が私の最高の時間…泣きそうです。本当に久しぶりです。
「皆から贈り物よ。」
そう言ってエカテリーナがくれたのはビスクドールのお人形でした。
お人形を貰う年齢は過ぎているのですが………。くださるというのです。
にこやかにいただきます。
「ありがとうございます 」
皆を会場に案内します。
「ルティアナ可愛い」
あまりの可愛さに思わず口にしていしまいました。
「ありがとう。アレクセイの馬鹿親ぶりが酷くて…末恐ろしいわ。」
大変そうです……ね。わかります……その気持ち…。
皆が好きなオレンジジュースをふるまいます。
皆と歓談している所で、執事長が私に耳打ちしていきます。
「ラファイエット公子並びにナディアン大公子お見えです」
「皆さま少し失礼します」
招待客に一礼してエントランスに行こうとしたら。
エカテリーナが無言でガンバと手をグーして上下に振って応援してくれます。
「うふっ」
さあエントランスへ。
白い大理石のエントランスに男性二人が立っています。
お二人は仲がよろしいようでにぎやかに歓談されていました。
私が来るのを確認するとお辞儀される姿はとても優雅でいらっしゃいます。
私も軽くドレスの裾を持ちあげて膝をおりお礼で返します。
「ラファイエット公子殿ようこそお越しくださいました。
フェルディアーヌ・プルミエ・ディア・フェレイデンでございます」
ラファイエット公子殿は落ち着いた雰囲気で大人の雰囲気がします。
切れ長な目尻が綺麗です。
お召し物も紺色と白いシャツは上品でありながら所々の銀糸の刺繍の唐草文様が綺麗です。
「初めてお目にかかります。ランビエール・ディア・ラファイエットでございます。
ご招待をありがとうございます。
こちらはお招きの御礼 扇です」
にっこりと太陽のような微笑みをされると少し頬が赤くなります。
隣のナディアン公子とも挨拶し合います。
「ナディアン大公子殿ようこそお越しくださいました。
フェルディアーヌ・プルミエ・ディア・フェレイデンでございます」
「お初にお目にかかります。ルイ・フェルナンド・ディア・ナディアンでございます。
ご招待をありがとうございます。
こちらはお招きの御礼 手袋です」
「ありがとう。 楽しんでください」
ナディアン大公子殿は淡いブルーと深いブルーのシャツのお召し物でやはり上品でありながら金糸で唐草文様を刺繍された良い品です。
綺麗なクリクリした瞳が好奇心多そうな非常にひとなつっこそうな方です。
「ありがとう。 楽しんでください」
二人の紹介が終えた時、息を切らせながら到着したのはディナルド殿でした。
「ディナルド殿ようこそお越しくださいました。
フェルディアーヌ・プルミエ・ディア・フェレイデンでございます」
「お初にお目にかかります。アンドリュー・ディア・ディナルドでございます。
ご招待をありがとうございます。
こちらはお招きの御礼 叙事詩の書籍です」
「ありがとう 楽しんでいってください」
ディナルドはあまりのフェルディアーヌの美しさにぽか~んとしています。
ドディナルは清潔ではあるが黒い装いでシャツは白でシンプルな装いでした。
「ドディナル殿
確かに皇女殿下はお美しくていらっしゃるが。あまり見つめると失礼だよ」
ナディアン公子は雰囲気を壊さないように軽くウインクしてちゃかしたようにその行為を止めました。
「申し訳ありません」
フェルディアーヌは柔らかな微笑みで答え。
三名を会場へ案内し、それぞれ微発酵の葡萄ジュースを口にします。
「美味しいね。」
ラファイエット公子が一口飲んで言ってくれました。
「さすが領地内の葡萄はこのあたりの名産ですからね。ん~旨いね」
ナディアン大公子はすごく親しみやすい方ですね。
「あっはい」
二人は終始穏やかでディナルドはかなり緊張していた。
「では皆さま会場の観覧席におかけくださいませ」
フランツが案内します。
椅子が並べられそれぞれ招待客を侍従が案内していきます。
楽師たちが楽器を手に会場内に入ってきます。
しばらくすると小さな可愛らしい村の子供達が入場してきました。
おそろいのフェレイデンの民族衣装を着ています。
「わぁ~~」
皇女達が歓声を上げます。
ちいさな子供達が得意げにウキウキした様子で並んでいます。
指揮者がタクトを振るとバイオリンが、フルートが、ピアノが鳴り響きなした。
美しいです。そして清らかな子供達の村の民謡が聞こえました。
「感動です。
なんて美しい歌声でしょう。天使の歌声…」
「可愛いわ。それに素敵な歌声」
「ほんとう」
「愛らしいわ」
皆さん小声で子供達が賞賛の声を揚げています。
思わず涙が溢れてきます。
皆さん楽しんでくださっているでしょうか?
ちらりと見ると皇女や皇太子妃、ご婦人達もうっとりと歌声に酔っておられます。
清らかなものは何をも上回りますね。
執事長ありがとう。
子供達の歌声披露の後は今フェレイデンで人気の二人の歌い手を招きエルディア叙事詩の中のディアとジークフリードの愛の歌を順に披露してゆきます。
美しいソプラノとテノールの声が素晴らしいです。
さすがに皆さま涙を流して歌声に魅了されています。
よかったです。
胸をなでおろします。
皆さま余韻に浸ってくれています。主人として嬉しいです。
演者に拍手を贈り歌劇鑑賞会は終了しました。
「皆さまそれではテラスでお茶の席をご用意しております。
どうぞそちらへ」
執事長が皆をテラスに誘導して、侍従がそれぞれについてテラスへ案内します。
私はお父様に言われた通り、まずはティーパーティの前にドディナル殿を見つけました。
「こちらの離宮の庭園は見事なのですよ。
ご案内いたしますね」
ニッコリ微笑むと察したドディナル殿がやや緊張気味に一緒に会場を離れます。