自転車(空気入れ)泥棒(1)…実際の話
いや、では、ひとつ小噺と云うか、つい先日起こった小さな窃盗事件からご披露申し上げましょう。
えー、皆様は1948年製作のイタリアのネオレアリズム映画名作「自転車泥棒」をご存知でしょうか?戦後の不景気下やっと得たポスター貼りの仕事…主人公のアントニオは妻の嫁入り道具を質に入れてまで何とか自転車を都合致します。これで家族を養わなければならない大事な自転車、ところが…仕事中にその虎の子の自転車をアントニオは盗まれてしまうのです。しかしやがて犯人に間違いないと思われる男を捜し出すと「自転車を返してくれよ。警察に訴えたりしないからさ。なあ、頼むよ!あれがないと俺は仕事ができないんだ…」と必死に説得、懇願致します。しかし男は薄らとぼけてその場から逃げてしまう。その後警察に届けても〝てんで〟相手にされません。結局最後はさらに惨めな結末で終わるのですが、この類のことが当寄席の主人公である三遊亭私にも起こったのです。その三遊亭私こと、つまりこの私も、警察に届けようとは思ったのですが…しかし致しませんでした。なぜか…。これを以下に〝想像的〟小噺とするところでございます。そこには自転車泥棒の往時とは実に様変わりした、昨今の世情というものが現れております。
さて!人が汗水たらして稼ぎに務める平日の昼日中から、缶ビールなどを飲み合いながら楽し気に悪談議にふける御仁らがおります。見ればいつものストーカーのご面々に違いなし…