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「早く……この格子をなんとかしなくちゃ」
ミランが何かの薬品を、一番奥の鉄格子の根元にかけていたのを見ていた。ミランが眠ってしまい、連れていかれる時、手元に転がっていた瓶を、さっと裾の中に隠した。
ティアはその瓶の蓋を開けると、同じ格子の根元にかける。鉄製の格子が汗をかいたように少しずつ溶けていき、そして緩んでいく。
(……もうすぐで外れそうなんだけど)
ぐっぐっと、両手で思いっきり引っ張る。思いのほか鉄格子は堅牢で、それはなかなか外れなかった。
「外れない……」
ここ盗賊団の盗品は高値で売買されることを、ティアは知っていた。そうでなくとも、ミランが自分を助け出したとしても、リの国の国主である兄の元へと戻らなければならない。
(どちらにしても、籠からは出られない……)
ティアの瞳が、大粒の涙で潤んだ。
(……戻りたくない)
強くそうは思うが実のところ、例えミランに逃がしてもらい、この世界に放り出されたとしても、独りで生きていけるのかにも自信がない。
物心ついた頃からずっと宮廷の奥で過ごし、兄の他に顔を合わすのは、お付きの女官シュラと国外からの賓客に目通しされるだけの生活を送ってきたからだ。
(人はみんな、どうやって生きているの?)
メイファンの盗賊に連れ去られた時、宮廷の外へと飛び出すチャンスにも思えて、昂ぶった自分がいた。
だが、自分はこのまま知らない誰かの元へと売られていくのだ、そう気づいた途端、恐怖で身体が震え出したのだ。
(けれど、兄様の元へは……戻りたくな、い)
大粒の涙が、ほろっと落ちる。
だが思い浮かぶのは、兄の顔のみ。
ティアは、もう一度鉄格子を引っ張り、それが少しも動かないのを絶望的に思うと、そのままベッドに伏せた。
涙が次々と流れていく。
流れる涙をそのままにして、ティアは目を瞑った。




