表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/48

41


ルォレンは顔を上げて、男を睨んだ。


「なんだとっっ‼︎ お前からぶつかっておいて、舐めた口きくんじゃねえぞっ‼︎」


どっ、と腹に衝撃があった。足で蹴られたのはわかったが、一瞬で息ができなくなり、その腹を両腕で抱えるしかできなかった。口から唾を吐き出し、おえ、おえと、えずいてから丸くなる。


「……はあ、はあ」


あまりの痛みに顔を歪ませる。目には涙が溜まり、男の足元に転がる黄色の物体が、ぼんやりと映った。まだ食べられそうな物が転がっている。


「……ミラ、ンのバナ、ナ……」


手を伸ばす。バナナには遠く、届かない。腹を抱えたまま、ズルズルと前進すると、男の足が目の前に並んだ。


クツにはバナナがべっとりとついている。


「おい小僧、よくもオレ様のクツを汚してくれたな」


そして、男はさらに腹を蹴った。腕で押さえていたので、二度目の衝撃は少なかった。けれど、ルォレンの動きを完全に止めるくらいの、荒々しい蹴りだ。


「ミラン、の、」


それでも手を伸ばした。


そのルォレンの様子を見て、男が高らかに笑って、「そんなにこれが欲しいのか」


そして、残りのバナナをぐちゃりと踏みつけた。倒れながらも、ルォレンはその様子を見ていた。目の前で、壊れていくもの。


「くそおおお」


あまりの怒りに身体が震えた。ミランの腹を少しも満たすこともできない、自分に対しての怒りもあった。


顔が真っ赤に火照り、額に青筋が立つ。けれど、身体は思うように動かない。


悔しくて悔しくて、ルォレンは地面の砂を握り込んだ。唾が口から垂れ、砂地に茶色の跡をつけていく。その染みが広がっていく様子を見ているしかなかった。


「ガキがっ‼︎」


そして、再度男が足を振り上げた。今度は腹ではなく、顔面の位置。目の前に男の大きな足が迫ってきて、ルォレンはとっさに、ぎゅっと目をつぶる。


けれど、衝撃はいつまで経ってもやってこなかった。


うすら目で見ると、バナナを踏んだ男は、その場で倒れていた。


そして、もう一人。


白髪の、男。冷たい目。


ルォレンは地面に顔を落とすと、倒れている男の靴底についたバナナの果実を見ていた。それが、この騒動の最後の記憶だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ