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明日もルォレンのためにパンを盗ってこよう、ミランは毎夜、そう思いながら眠りに就いた。
が、そんなある日。
身も心もギリギリのそんな生活に我慢できなくなり、家の子どもとの大喧嘩をきっかけに、とうとうルォレンが逃げ出してしまった。
だが、その時はまだ、ミランとルォレンは一緒だった。
ルォレンが一家から少し距離を置いた森に自生する大木の根元に、藁を敷いて寝泊まりしているのを、ミランは知っている。
ミランは毎日、市場や畑で食料を盗ってくると、今日のようにルォレンの元にやってきて、二人で分け合って食べた。
(ひとりじゃない。いつまでもルォレンと一緒にいる……)
そう考えるだけで、ミランの心は温まった。
「さあ、食べて」
ミランが促すが、ルォレンは手に乗せた丸パンをじっと見つめている。すると、何かに気づいたように、目を丸くしミランを見た。
「これ、……血が、」
丸パンに、赤い染みがついていた。
「あ、ちょっと、転んじゃって、……でも大丈夫。嫌だったら、ここんとこ千切って食べれば」
ミランが手を伸ばすと、ルォレンが丸パンを持っていた手を引いた。
「……傷は大丈夫なの?」
ルォレンの優しい声に、ミランは慌てて言った。
「大丈夫大丈夫、私が頑丈なの知ってるでしょ?」
「……ミラン、いつもありがとう」
その弱々しい笑顔。
ルォレンは丸パンを半分に割ると、片方をミランへと差し出し、もう片方を頬張った。
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「おい小僧、よくもオレ様のクツを汚してくれたな」
足で蹴飛ばされた腹が、破裂しそうなくらい痛かった。
ルォレンが養父母の家を出て、森で一人暮らしを始めてから、半年が経った頃だった。
ミランは養父母の家で働く間に食料を盗んできては、ルォレンの元へと運んでくれる。そんなミラン任せの生活を情けなく思い、自分も食べ物を盗んできてミランを喜ばせたい、ミランの腹を満たしたい、そう思っていた。
けれど、自分はミランより運動能力も劣るし、盗みの才能もない。
(ミランは何でもできてカッコいいな)
思いながら、市場をうろうろとうろつく。




