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なんだなんだと遠巻きに見ていた大人たちも、事が収束すると興味をなくしたようにバラバラと去っていく。
(早く、戻らなきゃ)
顔の砂を袖でぐいっと拭く。もう一度、砂混じりの唾をぺっと吐くと、ミランは歩き出した。
足や腕から細く血が流れているのを見て、途中、道をそれたところにある川で傷口を綺麗に洗おうと思った。けれど、その川の辺りでは最近、山賊が出るという噂を耳にしていたのだと、思い直す。せっかく手に入れたパンを逆に盗られてしまっては元も子もない。
(遠回りだけど……)
ミランは人通りの多い大通りを歩くことにした。
腹の中に丸パンがあると思うだけで、痛みが引いていくような気がした。
歩いているうちに目頭が熱くなり涙が目尻に滲んだが、それはその日その日をこうして食料を盗み食いして生きなければならない運命を恨んでの涙ではない。
丸パンを一つ手に入れたという幸福感。
養父母に育てられているミランはいつも貧しかった。一日の食べるものにも困るような生活を送っているミランの身体は、痩せ細っていて、ひょろっとしている。
女だと知れると生きにくくなるため、ミランは髪を刈って短くし、そして泥や汗にまみれた汚い服を洗いもせずに着るようにした。
ただ。
身体は細かったが、骨太で丈夫だった。たいした病気になることもなければ、大きな怪我をしたこともない。
今日のように何度も大男に叩かれたり殴られたりしていて、生傷こそ絶えなかったが、骨を折るようなことはなかった。
(アイツ、前より太りやがって……)
叩かれた側頭部が、ジンジンと脈を打って痛む。けれど、腹に隠した丸パンの存在を思うと、ミランの足取りは軽い。
(ルォレン、喜ぶかな)
幼馴染の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
ミランは人が行き交う大きな道を急いですり抜けると、ちょっとした森を横切って、緩やかな丘を登った。




