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「ミランっっ」
「モニ、良かった」
放り投げられた籠を両手で受け取ると、ミランは心底安堵した。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「うええ、船酔いだ……」
「今、出してやるからな」
ミランが慌てて籠の蓋を開けようとし、そこにある南京錠に気がついて、手を止めた。
「鍵を寄越せ」
ミランがドアの前に立っているルォレンに向かって言葉を投げる。ミランがベッドから降りようと足を上げると、そこを拘束する鎖がジャラジャラと音を立てた。
「悪いが、そのチビにちょろちょろされても困るのでな」
手の中に握り入れていた小さな鍵を、上に投げてからまたキャッチする。
「チビだって⁉︎ バカにすんなっ‼︎」
モニが怒り心頭で悔しそうにギリギリと歯ぎしりする。
ミランが籠を枕元にそっと置き、同じく枕元に置いてあったボトルを開けて、その蓋に水を注ぐと、モニに渡して飲ませた。
「気分はどうだ?」
「だいぶマシ」
「ずいぶんと可愛がっているな」
二人の様子を見ながら、ルォレンがドアに背をもたせかけたまま、両腕を組んだ。
その言葉を無視し、ミランは水のボトルを飲んだ。薬などはもう入っていない。部屋を移動してからは、こうして与えられた水を飲んでも眠気はやってこないし、具合も悪くはならない。
(……翼人の姫君は、大丈夫だろうか)
「ミラン、聞いてくれ」
「うるさい、早く出ていけ」
ルォレンがミランの意固地な態度に対して、眉をひそめる。組んでいた両腕を解いた。
「ミラン、話だけでも、」
「早く出ていけと言っているっっ」
その言葉で、ルォレンが動いた。つかつかとベッドへと歩いてきたかと思うと、ミランの上にかぶさり、馬乗りになる。
「やめろっ、何するんだっっ」
ミランでなく、モニの声だ。
「ミランから離れろっ、ミランに触るなよっっ‼︎」
ルォレンは抵抗するミランの両方の手首を取って、ベッドに押さえつけた。乗せた身体の重みで、ミランを動けなくする。足を絡めると、ミランの足かせがジャラと音をさせた。
「何をする」
ミランの抑えた声。すぐ近くにルォレンの顔。吐息のかかる距離に、ミランは身体を震わせた。
「どけ」
ルォレンが、じっとミランの目を見つめる。
「どけと言っているっっ‼︎」
ミランも真っ直ぐに見てくるルォレンを睨み、見返した。ルォレンは頭をミランの胸元に預けると、はあっと大きな溜め息を吐いた。
「……ミラン、頼むから俺の話を聞いてくれ」
どっ、と心臓が鳴った。
再度、顔を上げたルォレンの、その表情。
慈しみの瞳。いや、愛しさに満ち溢れた瞳だ。
「……ルォレン」
幼い頃、離れ離れになった時から二度と口にしないと封印した、その名を呟いてみる。
ミランの脳裏に幼い頃のルォレンの、弱々しく微笑んだ顔が浮かび上がってきた。




