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事の顛末は、途切れ途切れに聞こえたミランと黒蛇のやり取りなどから大体の予測はついた。ミランが捕らえられ手も足も出ない状態なので、シュワルトはまずはその場から逃げるために、竜へと身体を変化させ、そして飛んだ。
砲弾によって捕獲網を投げられたが、肩に引っかかっただけで、翼には当たらなかったのが幸いした。シュワルトは空中で網を振り払うと、そのままルーエン街の外まで一気に飛んだのだった。
ここは、郊外にある農場の納屋。無断ではあるが少しだけ失礼して、今夜の寝床とさせてもらう。
「ミラン、」
名を呼んで、目を強く瞑った。
すると、数年前。ミランが一緒に旅に出ようと言ってくれた時に見た、苦くも優しく笑う顔が浮かんでくる。
その時にはすでに親密な友達となっていたミラン。そのミランが言った言葉が脳裏に蘇った。
「さあ、シュワルト。もうそんな風に泣かないでくれ。お前を預かるのが私では不満か?」
シュワルトはその時、確かに首を横に振った。
まだミランにもあどけない少女の部分が残る頃に出逢った、ミランとの友情は育まれ、心の根っこからの信頼があった。
「両親に置き去りにされたお前の気持ちはよくわかる」
シュワルトが涙を溜めた目を向けると、ミランが再度、苦笑した。
「私も親に捨てられ、そして幼馴染にも捨てられた。身に覚えのある辛さだよ」
「ミラン、」
「今は悲しいだろうが、きっと時間が癒してくれる。嘘じゃないぞ。私もそうやって乗り越えてきたからな」
ミランの手が、シュワルトの頬を包み込む。竜の頬は、硬くてゴツゴツしているはずだ。けれど、ミランは泣きじゃくるシュワルトの首に腕を回し、そしてあろうことか自分を抱き締めてくれた。
ミランの温かいぬくもり。
シュワルトはそれを一生忘れないと思った。
「ミラン、待っていてくれ。僕が必ず助けるからね」
シュワルトは藁の中に顔を突っ込むと、英気を養うためにと、なんとか眠りに就いた。




