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下げていた頭を戻し、ルォレンがその白髪の老ラオレンに視線を向ける。
「ラオレン、くだらないかどうかは俺が決める」
「ふん……そういえばそうだった。思い出したぞ。お前は幼い頃から、ミランミランと何かあるごとに泣いておったなあ」
「…………」
「それがあの女盗賊とは、思いも寄らなかったがな」
「ラオレン、俺は貴方が大切にしているメイファンに決して迷惑はかけない」
「そうか? お前からは育ててやった恩義を全くと言っていいほど感じないがな。ははは、さっそく竜族のを取り逃がしておいて、どの口が言うのだ」
唇を歪ませて、老人は高らかに笑った。
「忠誠心や情に厚い竜族のことだ。必ず女を取り返しに来るぞ」
「わかっている」
「余計なものに心を奪われおって……」
溜め息混じりの悪態をついた。老ラオレンは踵を返すと、半開きだったドアへと歩いた。そのよろよろとした頼りない様子で、ラオレンがかなりの高齢だと見て取れる。ドアの前で歩みを止め、老ラオレンは少しだけ振り返って言い放った。
「あのリの国主がこよなく愛する妹君は、すぐにでも売り飛ばすが良い。もちろんわかってはいると思うが、国主の手が届かぬアンダーグランドへ、だ。あれは異形としては見目麗しい種族だから、かなりの値で売れるはず」
「…………」
「翼が邪魔で売れ残るようなら、翼をはいでから売ってもいいぞ」
モニの背筋が凍った。
(なんて、酷いことを……このままだとボクもペットのエサかゴミ箱行きだ)
「……わかった」
ルォレンが短く返事をして、老人に退室を促した。
老ラオレンが部屋から出ていくと、ルォレンは小さく息をついた。腰に下げた剣に近づけていた手を下ろす。
剣に遠慮なく手を近づけていた姿を見て、モニは老ラオレンの目が完全に見えていないことを知った。盲目なのだ。
(白蛇と黒蛇、仲、むちゃくちゃ悪っっ‼︎ それにしても、白蛇のじいさんは引退しただけだったんだね。ということは、まだ実権は白蛇が握っているんだ)
考え込んでいると、籠がぐらっと動いて、格子で頭を打った。
「痛ったああ」
籠に入れられたままのモニが、ルォレンに乱暴に掴まれ、籠の中で振り回される。
「わわわああ‼︎」
(……シュワルトは逃げたみたいだから、シュワルトになんとかしてもらわないと、)
必死に格子に掴まる。
「ちょっとお、もう少し丁寧に運べよっ。船酔いするだろっ‼︎」
ルォレンに届くよう叫びながら、モニは大きな耳をそばだてていった。




