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ドアを開けて入ってきた男が、頭を下げる。男は言いにくそうに顔をしかめていたが、表情を変えないルォレンの前で観念したのか、切羽詰まったように早口で言った。
「申し訳ございません。竜めを取り逃がしました」
ルォレンが男を一瞥する。
「……そうか。わかった。下がれ」
「はい」
短い返事に、男の顔に緊張が走る。頬は引きつっていて見るも哀れな表情となる。モニはこの男が相当、ルォレンのことを恐れていることを知った。
(シュワルトはどうやら逃げたらしい)
「おい、お前の仲間が迎えに来るぞ」
「まあね。シュワルトもミランを愛しているから」
その言葉に、ピクッとルォレンの眉が反応した。
だが、直ぐにベッドの上に放ってあったベルトと剣を取り上げると、すかさず腰に巻き、剣の位置を直す。
「悪いがミランは俺が貰う」
「なんだって‼︎」
「幼い頃に別れてから、俺はずっとミランを探し続けてきた。お前らの愛などは俺には関係ない。ミランは俺のものだ」
「これはこれは……お前がそこまで何かに執着するのは、いたって珍しいな」
種類の違う声がして、モニは慌ててドアの方へと顔を向けた。
半開きのドアから、一人の老人が入ってくるところだった。
中華風の洋服をまとった老人は、音も立てずにすうっと部屋の中へと入ってきた。
モニは老人のその異様な雰囲気に圧倒された。ごくと唾を飲み込んだ。 もちろん立ち居振る舞いにも圧はあるが、目を惹く、その見事な白髪。
(まさかこの人が『白蛇』?)
『白蛇』は死に、『黒蛇』が実権を握っていると聞いていた。
「……ラオレン」
ルォレンが丁寧に頭を下げる。
(やっぱり、そうだ)
どうやらモニの勘が当たったようだ。
「まさかその女盗賊を捕まえるために、あの翼人をさらってくるとはな……引退した身で、お前のやることにいちいち口は出さぬが、」
口調は優しいが、貫禄のある物言いに底知れぬ恐怖を感じて、モニは外へと出していた尻尾を仕舞い、前で抱きかかえた。ふるっと震えがくる。
「くだらんことに兵を使うな」




