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ここでようやく、ミランは男を見た。
黒蛇。
リの国一の盗賊団メイファンをまとめる首領。
「どれほどのいかつい男かと思えば、意外にも優男だったな」
ミランが表情を変えずに言うと、黒蛇は、悲しげにふ、と笑った。
「俺を……覚えていないのだな」
「覚えているよ」
ミランの言葉に黒蛇は顔を跳ね上げた。その太い眉尻を下げ、眉根を寄せる。
「ミラン、本当か、」
「……ルォレン」
座っていた椅子を後ろへと倒しながら、黒蛇は立ち上がり、ミランへと一歩進んだ。
「そうだ、そうだよ。ミラン、俺だ。ルォレンだ」
ミランへと手を伸ばす。その指先が、ミランの髪に届く寸前で、ぴたりと止まった。
「よくもまあ、のこのこと私の前に出てこられたな」
止まった指先が、ふるっと震える。
「……ミラン、会いたかった。お前を探していた」
ミランが顔を背けた。
「それで、リンドバルク殿の妹君を誘拐したというわけか」
「……そうだ。仕事の依頼以外では、お前は絶対に人前に現れない」
「妹君にとっては、いい迷惑というものだ」
「ミラン、」
「モニを返せ」
すかさずの返事に、ルォレンが唇を歪ませた。
「せっかくの再会だ。もっと話をしよう」
ミランが口元を緩めた。
「お前と何を話すというのだ? 兄弟同然だった私を置いて逃げたのに、今さら、」
「違うっ‼︎ 逃げたんじゃないっ‼︎ あれは不可抗力だった、自分の意思じゃない」
「うるさいっ‼︎」
「ミラン、聞いてくれ」
「モニを連れてこい……」
ミラン、再度名を呼ぼうとしたところを、ピシャッと遮られる。
「モニを返すんだっっ」
はあはあと荒く息を吐く。これくらいのことで息が上がるとは、まだ薬の効果が切れていないのだな、ミランはそう思うと、ベッドの上にごろっと転がった。
ルォレンを視界に入れまいと、壁側へと寝返りを打つ。
薄い毛布を肩まで引っ張り上げ、足を曲げてくるまった。
「ミラン、会いたかった。ずっと探し回ってようやく会えたんだ。いいだろう、やっと手に入れたんだ。時間をかけて教えてやる。俺が……俺がどれだけお前を、」
口をつぐむと、ルォレンは部屋から出ていった。
鍵を掛ける音が、二回。一つはドアノブについている鍵。そしてもう一つは、そのスライドされる音から、かんぬきのようなものだとわかる。
「ルォレン、今さらなぜ私の前に現れた。私に殺されるためにか?」
くくっとミランは笑った。




