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「酷い目に遭ったものだな」


ミランが猿ぐつわを解くと、女ははらはらと涙を零し続けた。後ろ手に縛られている紐も、結び目を解いてやる。身体が自由になると、ようやく手の甲で涙を拭った。


「…………」


しやくり上げる声以外は発しない。ミランはそっとその上下する背中をさすった。


「……大丈夫か? あなたがリの国のリンドバルクの妹君だな?」


女は頷き、そしてさらに泣いた。


「名前を訊いてもいいか?」


「……ティアと申します」


ミランがにこりと笑って、「良い名前だな」と言った。


その言葉に、ティアが顔を上げる。頬は濡れて茶色の跡がついて汚れてはいるが、その美貌は失われていなかった。


(美しい姫君だ)


「翼を広げてリラックスしてもいいぞ」


ミランが言うと少しだけ驚いた表情を浮かべたが、ティアは背筋をぴんと伸ばすと、背中から翼を出し大きく広げた。


「縛られていたから窮屈だったな。怪我はしていないか?」


「……はい」


「リンドバルク殿から貴女を連れ帰るよう仰せつかっている。今はこんな状態だが、なんとか抜け出して貴女が国に帰れるよう取り図るから安心してくれ」


すると、声だけでなく身体もビクッと跳ね上げると、ティアはさらに泣いた。


「嫌ですっっ、お願い。帰りたくない、兄様の元には帰りたくないんですっっ。このまま、み、見逃してください。お願い、お願いし、ま……す」


実はリの国、国主リンドバルクが、翼人つばさびとである妹君を、盗賊団メイファンに奪われたということは、裏ルートを通してミランは知っていた。


そしてまた、「翼を持つ異形」として、隣国との接待などの席で見世物にしていることも。


(このような美貌なら見せびらかしたくなる気持ちも分からないでもないが、)


「だが、困った。貴女の兄上からはすでに依頼料として相当な額を受け取ってしまっている。悪いが、私は貴女を連れて帰るしかない」


すると、さあっと、ティアの顔色が変わっていった。広げていた翼を折りたたみ、身を縮こませると、さらに涙を零し続けた。


ミランはそんなティアを憐れに思った。

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