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クローゼットのドアが、ギィと音を立てながらゆっくりと動く。そのドアに隠れるように立っていた男が、その暗がりから出てきた。
その男のまとう異様な雰囲気に、ミランが後ずさる。
裸足だ。
(モニが、……気づかないわけだ)
ミランは 心で苦笑した。
男は、ゆっくりと進み出てくると、そこでぴたりと止まった。
「誰だ」
ミランが鋭い声を出す。
盗賊団の下っ端であるはずがない、それは男の立ち居振る舞いで一目瞭然だ。頬にかかるウェーブのかかった黒髪と、その頬にある傷跡。そしてその眼光の鋭さに、ミランは唾を飲んだ。
「……お前が、メイファンの黒蛇、か」
男は身じろぎもせず、ミランをじっと見つめている。
ミランもその隙に男の観察と、次なる一手を模索した。
(裸足、とはな……どうやら私が彼女を盗みにくるのを知っていたようだ)
「ミラン、お前の噂は聞いている」
黒蛇は、やはり身体のどこもを動かすことなく、声を発した。
側で見ていたモニが、いつのまにか見当たらない。ちらりちらりと周囲に目を這わせるが、見つけられなかった。
ミランが剣を握り込んでさらにかざすと、黒蛇は腰から短いナイフを三本出して、それぞれの指に挟む。
「さあ、その鉄格子の中に入るんだ」
ニヤリと不敵に笑う。その余裕ある笑みと、手元を見て、ミランの背筋が凍った。
「モニっっ‼︎」
さあっと背筋に嫌な汗が流れる。
ナイフを持つ右手ではない。だらりと垂らした反対側の手だ。そこには気を失わされたモニが、その大きな手に握られている。
(い、いつのまにっっ)
「ミラン、お前はお友達が多いんだな」
黒蛇の声が頭の中で響き、痺れる。ミランは動揺し、それを抑えようと、短刀を握る手に力を入れた。
「中に入れと言っている」
ミランは観念し、短刀をその場に落とした。そして、背後にある鉄製の格子の鍵に手を掛ける。ギギッとドアの音がしたと思うと、ミランは頭を下げてベッドの中に入った。
布の裂け目から黒蛇がミランを見つめる。ミランも険しい表情で、黒蛇を見た。
「ようやく、会えた」
一言呟くように言うと、黒蛇が音もなく近づいてきて、鳥かごの鍵を外からかける。ガチャンと音が鳴った。
「モニを離せ」
黒蛇はニタっと笑うと、左手を少し上げて言った。
「これはもう必要ない」
ピクッと手が動く。
「やめろっっ‼︎」
ミランが慌てて格子に指をかけて数度揺らすと、ガチャンガチャンと甲高い音が響いた。
「そんなにこれが大切か。なら、俺が預かっておこう」
黒蛇はそのまま踵を返すと、部屋から出ていった。
「モニ、」
ミランは唇を噛み締め、うなだれて、モニの名を何度も呟いた。




