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「この手を離せって言ってんの」


その腕を竜のそれへと少しだけ変化させ、力を入れる。


「いてててっ‼︎」


男は骨の芯にも響く、その馬鹿力におののいて、思いのほか簡単に逃げていった。


そして、残された女が頬を染めながら、シュワルトに礼がしたいと言った。


(うーん、可愛いけど僕のタイプじゃないんだよなあ。でも仕方がない。情報情報)


けばけばしい化粧とむせ返りそうになるきつい香水の匂い。


(鼻がもげそう……)


その匂いから逃げるように、シュワルトはカウンターに向かって手を上げ、ビールを再度注文する。


「なんかいい仕事ないかなあ」


女は、さらに顔を近づけてきて、そっと耳打ちした。


「……あたしの旦那さまになってくれたら、いい思いさせてあげれるよ。こう見えてあたし、お金はたんまり持ってるんだから」


ビール何杯でも奢っちゃう、女がそう言い放ったこともあり、確かに金だけは持っていそうな雰囲気だ。


「あはは、またまたあ。結婚なんて、そんなすぐにするもんじゃない。結婚は人生の墓場っ言うじゃない? それにキミは美人なんだから、ちゃんと相手を選ばなきゃ」


擦り寄られて辟易しながら、シュワルトは心の中で独りごちた。


(あーあ、これがミランのためじゃなかったら、すぐにもそのでかい尻を蹴り飛ばしてやるのになあ)


女がシュワルトに興味を持っているのは一目瞭然だ。イケメンを逃したくないという執念のようなものすら感じられて、シュワルトは身を引きながらも無理矢理笑った。


それでもまだ女が身体を寄せて、声をひそめる。


「じゃあさ、こんなのどうかな?」


「んー、なになに?」


女がシュワルトの腕に、指輪で埋め尽くされている長い指を回してくる。腕を掴んで引っ張ると、シュワルトの耳元に唇をつけて囁いた。


「盗品売買」


シュワルトが女の顔を見る。


女はニヤッと笑って、私、そこで働いてるの、と指をさした。


酒場のカウンターの奥。


先ほどから、そのドアを介して人の出入りが頻繁なのは、ちらと横目で確認している。


シュワルトは目線を女に合わせると、ふーんと興味なさげに言う。


「それはやばい」


「大丈夫、違法じゃないよ」


「まあね。知ってる」


「人手が足りなくて困ってるの」


「どうだろ」


シュワルトが女から逃げるように体を離した。


「ねえ、女の子もたくさんいるよ」


慌てて、女はシュワルトの腕を引っ張る。


「え、ほんとっ?」


女が苦笑しながら腕を撫で、猫なで声でシュワルトへと再度体を寄せる。胸元を盛り上げるように、女は体をくねらせた。


「ほんとほんと。私が口を利いてあげるね」


「じゃあ、お願いすっかな」


「やったあ。あなた、きっとモテモテだよ」


「それは願ったり叶ったりだなあ」


シュワルトはビールジョッキを空けると、泡のついた口元を手の甲でぐいっと拭う。


「で、僕はなにをやればいいの?」


立ち上がり、シュワルトは女を見下ろした。

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