20
「この手を離せって言ってんの」
その腕を竜のそれへと少しだけ変化させ、力を入れる。
「いてててっ‼︎」
男は骨の芯にも響く、その馬鹿力におののいて、思いのほか簡単に逃げていった。
そして、残された女が頬を染めながら、シュワルトに礼がしたいと言った。
(うーん、可愛いけど僕のタイプじゃないんだよなあ。でも仕方がない。情報情報)
けばけばしい化粧とむせ返りそうになるきつい香水の匂い。
(鼻がもげそう……)
その匂いから逃げるように、シュワルトはカウンターに向かって手を上げ、ビールを再度注文する。
「なんかいい仕事ないかなあ」
女は、さらに顔を近づけてきて、そっと耳打ちした。
「……あたしの旦那さまになってくれたら、いい思いさせてあげれるよ。こう見えてあたし、お金はたんまり持ってるんだから」
ビール何杯でも奢っちゃう、女がそう言い放ったこともあり、確かに金だけは持っていそうな雰囲気だ。
「あはは、またまたあ。結婚なんて、そんなすぐにするもんじゃない。結婚は人生の墓場っ言うじゃない? それにキミは美人なんだから、ちゃんと相手を選ばなきゃ」
擦り寄られて辟易しながら、シュワルトは心の中で独りごちた。
(あーあ、これがミランのためじゃなかったら、すぐにもそのでかい尻を蹴り飛ばしてやるのになあ)
女がシュワルトに興味を持っているのは一目瞭然だ。イケメンを逃したくないという執念のようなものすら感じられて、シュワルトは身を引きながらも無理矢理笑った。
それでもまだ女が身体を寄せて、声をひそめる。
「じゃあさ、こんなのどうかな?」
「んー、なになに?」
女がシュワルトの腕に、指輪で埋め尽くされている長い指を回してくる。腕を掴んで引っ張ると、シュワルトの耳元に唇をつけて囁いた。
「盗品売買」
シュワルトが女の顔を見る。
女はニヤッと笑って、私、そこで働いてるの、と指をさした。
酒場のカウンターの奥。
先ほどから、そのドアを介して人の出入りが頻繁なのは、ちらと横目で確認している。
シュワルトは目線を女に合わせると、ふーんと興味なさげに言う。
「それはやばい」
「大丈夫、違法じゃないよ」
「まあね。知ってる」
「人手が足りなくて困ってるの」
「どうだろ」
シュワルトが女から逃げるように体を離した。
「ねえ、女の子もたくさんいるよ」
慌てて、女はシュワルトの腕を引っ張る。
「え、ほんとっ?」
女が苦笑しながら腕を撫で、猫なで声でシュワルトへと再度体を寄せる。胸元を盛り上げるように、女は体をくねらせた。
「ほんとほんと。私が口を利いてあげるね」
「じゃあ、お願いすっかな」
「やったあ。あなた、きっとモテモテだよ」
「それは願ったり叶ったりだなあ」
シュワルトはビールジョッキを空けると、泡のついた口元を手の甲でぐいっと拭う。
「で、僕はなにをやればいいの?」
立ち上がり、シュワルトは女を見下ろした。




