10
「悪いがそのようなものに興味はない」
どうしたら良いかと思案顔の女官が二人、先ほどから顔を見合わせたり、耳打ちし合ったりを繰り返している。
一人の女官のその手には、丁寧に布がかけられている大きな箱が抱えられていた。
「ですが、リンドバルク様のご命令で……」
「命令だろうが何だろうが、私は宴席などには出向かない」
「こうして、ドレスもご用意いたしましたので、」
慌ててリボンを解くと、女官は箱から出したドレスを広げてみせた。
「とても綺麗なドレスでございますよ」
一枚の絹衣からできた滑らかなドレス。胸元と腰に、金糸銀糸の豪華な刺繍が施されている。
リの国では人気のある、空にたゆたう雲の柄だ。自然を敬う国民性が、着物のデザインにも深い影響を与えている。
女官がそのデザインを見て、ほうっと嘆息の息をつく。
「これにお着替えください。ミラン様ならきっと、とてもお似合いになられます」
うっとりとした表情を浮かべた女官の様子を見て、ミランは毒を吐きそうになったが、この女官たちに罪はないと、ぐっと抑える。
「……わかったわかった。そこに置いておいてくれ」
二人の女官が部屋からそそと出ると、モニが胸ポケットから這い出てきて肩に乗った。
「可愛いドレスじゃない。こんな機会、めったにないし行こうよ」
「お前はどうせ、ナッツ目当てだろ?」
「いやあ、バレたか。でもボク、梅の酒ってのも飲んでみたいんだ」
「酒が目的か⁉︎」
「まあね。それに、シュワルトも行くよね?」
モニが話しかけると、寝室から続いている洗面所から、んー? と声が聞こえてくる。
「当たり前だよー」
呼ばれて顔をひょこっと出す。
「うええ、こいつ。もう行く気まんまんだ」
モニが吐き戻すような素振りを見せて、やれやれと顔を左右に振った。
顔を出したシュワルトは、すでに長くウェーブのかかった金髪を、後ろに引っ詰めて一つで束ねている。それだけではない。服も女官に頼んだのだろう、一枚の和風の着物をビシッと決めていた。腰に巻いた帯を若干緩めにし、胸元を少しだけさらけ出している。
「せっかくの宴会だからね。そこで仕事の話をするっていうなら、僕はもう全部ミランに任せるから、そのつもりで」
髪を手で撫でつける。
「それにミランだって、ちゃんとそのドレス、着た方がいいぞ」
女官が置いていったドレスを指差す。
「リンドバルク氏が直々に選んだらしいからね」
「ってかさ! どうしてミランのサイズまで知ってるんだよ?」
モニが不服そうに頬を膨らます。
「そんなの男のたしなみの一つだろ」
「シュワルトも見ただけでわかるの?」
「もちろんっ‼︎ そりゃ、抱き締めた方が正確にわかるけど。でも僕なんて一見しただけで、サイズだけじゃない、女の子のあれやこれまで分かっちゃうんだから凄いだろ?」
「おい、シュワルト。いい加減にしないか」




