嵐の来た方向
先祖代々伝わる黒隕刀。ちなみにこれは普通の人には見えない触れられない便利アイテムでもある。
「なっ……!?」
明らかに黒隕刀をしっかりみて驚いているとなるとこの人たちは業者じゃない。般若!
――高くつきますよ?――
部屋中に甘ったるい匂いが充満し僕は急ぎ会長の机の横へと飛び退く。チラリと見ると会長はぐーすか寝ていてホッとする。
「己……式神使いが何故こんなところに!?」
あっ、と思った時には既に遅く。業者は一人を残して般若により素敵な悪夢へご招待されてしまい床に倒れると白目を剥いて口から涎を垂らしてしまう。
――式神などとこの私を貶めてタダで済むと思うてか!――
般若は残り一人に近付きそう叫ぶ。良かった正面から見なくて済んで。想像したくない顔をしているのは間違いないし触らぬなんとかだ。
「ひ、ひぃいいいい!」
事情を聞く為に一人残しておいたのかと思いきや、特大の悪夢へ誘う為だったらしく白目を剥き泡を吹いて床へと倒れ込む。
その後、直ぐに御嬢様を抱えて部屋を出て通りがかったお付きに詳細を告げると慌てて人を掻き集めて御嬢様を回収して家に送るよう指示を出し、偽業者を何故持っていたのか分からないが縄を取り出して縛り上げ警察に連絡し慌てて来たお巡りさんに引き渡す。
僕も警察で事情を聞かれたが般若諸々は省いて答え直ぐ解放された。御嬢様の補佐を学校でしているのは何故か警察も知っていたし、防犯カメラも付いていたので疑われたりはしないのでホッとする。
翌日には般若の悪夢は消え警察による事情聴取が行われた。地元の有力者の娘に業者を偽って近寄ろうとした理由が判明しないと署長の責任問題にもなるからガッツリやられたようだけど何も答えないらしい。
そこまでして守らなければならないほどの力を持った人間か組織が居るのか。御嬢様は大事を取って休んでいたので特に用が無いし帰宅部の様に授業が終わり次第さっさと家に帰った。
手洗いうがいをした後部屋で着替えてベッドに寝そべり天井を見ながら考える。徳大寺の家は超が付く程の大金持ちで政財界でも顔が広い。
その会長が目に入れても居たくないほどの娘を誘拐するんだから、大きな組織なんだろうけど気になったのは犯人たちに黒隕刀と般若が見えていたっていう点だ。
偶々偽業者全員が見れたっていうのは無くは無いので断定は出来ないけどそう言う組織に所属しているかもしれない。そう言う線で当たって見よう。
「おぉ何でぇ暇か?」
離れに居る祖父のところに向かうと中庭で盆栽の手入れをしていたので声を掛ける。先日の件を話して何か心当たりはないかと尋ねると盆栽を弄る手を止めて空を見上げて唸った。
「思い当たるところは無いかな爺ちゃん」
「うーんあり過ぎて困るって感じだなぁ」
「何で? あの御嬢様は別にこっちの人間じゃないのに?」
「お前に引っ付いてるものが呼んだんじゃねぇかないつものように。今回は生きた人間だが」
―私はあのような無礼な者たちを呼んだりは致しませんよ失礼な―
般若は空からふわりと現れ僕らの横に降りる。悪魔の親戚みたいだと言ったが昼夜関係なく出てくるから悪魔より強いのかもしれないと思い始めている。
―悪魔でしたらもっと冷徹に罠にはめて縊り殺すでしょうね―
お化けでも悪魔でもない不思議な存在だよなぁ般若は。と言うか鬼ってそう言うものなんだろうか。
「元々誰かによって付けられたってんだろうが何の目的かは早めに調査しても辿り着けなかったんだ。相手は相当用心深いぜ?」
「今回御嬢様を直接狙って来たってなるといよいよ目的を果たそうとしているのかもしれないね」
御嬢様に初めて会った日、家に帰って祖父に相談し直ぐに調査を開始した。だけど痕跡は無く取り巻きに怪しまれ父親と面会。
彼女の身に起きていた事象を祖父が言い当てたのに驚きどうにかしてくれと頼まれ今に至る。般若と会話を重ねたが本人にも分からないし離れられないと言う。
だが般若の妖気に当てられ他の野良が寄ってくる。犯人も分からない状況で退治するよりも会話が出来る分般若の方が他よりマシだしダメもとで協力するよう祖父と共に説得。対価を渡す条件で協力してくれている。
「そんな素直なら良いがなぁ?」
―さてどうなんでしょうね。私は全く存じませんわ―
祖父の問いに真顔で首を傾げながら般若は景色に溶ける。恐らくそろそろドラマの再放送が始まる時間だなと察し僕らの家の方を見ると、母親が急いで洗濯物を取り込んでいたので間違いないようだ。
「アイツこの状況を楽しみすぎだろ俗っぽいなぁ」
「ホントにね。取り合えず学校も注意してみるよ」
「そしたら御札を何枚か持って行くと良い。何かあったら反応するだろ……まぁ般若が真っ先に嗅ぎつけるだろうから意味無いかも知らんが。俺も調べて見るわ」
「頼んだよ爺ちゃん」
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