【9話】家業
3人は長椅子に腰掛け、窓から差し込む西陽に背中を照らされながら話した。
「サトミの荷物...サロン科の道具と服飾科のものが混ざっているわね...。」
「まさか入れ間違えってこともないだろうしなぁ。」
アレンはすっかり私たちの空気に馴染んでいた。
「それにしても列車の中で記憶喪失になって、どこに入学するかも分からなくなったなんて。なかなかハードな旅だね。」
記憶喪失、という設定にした。エミリアは信じてくれたが、誰彼構わずあんな空想めいた話をする訳にもいかない。
「まぁ、2人のお陰で少しは答えに近づいたし!後は学園に行ってから確認することにする。」
手を合わせ、ありがとうね、と言った。
アレンが持っていたトランクにはどういう訳か"サトミ"と刻印が入っており、私が王都学園の新入生であることはほぼ確定した。
神様が用意してくれたのかな?私が違う名前を名乗っていたらどうなったんだろう...。
ふぅ、と一息ついた。これ以上、創世秘話のようなことを考えても仕方ない。話題を変えることにしてアレンの方を向く。
「アレンも学園の新入生なのよね?」
「そうだよ。この学園では、様々な分野の勉強をする人が集まるだろう?長男の僕は将来的に家業を継ぐことになるから、社会勉強になればいいなと思ってる。」
アレンは、実家が商業をしているらしい。慣れた手つきで、トランクとは別の鞄からカタログを取り出した。
「例えばこんな感じ。武器やドレス、化粧品、食品まで、いろんなものを卸してるんだ。」
ページが捲られる度、サトミはワクワクしていた。
前世でコスプレをしていたこともあり、色とりどりのドレスや化粧品の数々は、サトミの胸を高鳴らせた。
「アレンは商売上手ね!こんな素敵なものを見ていたらついつい欲しくなってしまうわ。」
装飾品のページを見ながら、うっとりした表情でエミリアが言った。
サトミもうんうん、と頷いた。
「エミリアはサロン科だもんね。こういうのが好きなの?」
「えぇ、私が暮らしていた街では定期的にみんなが自分の持ち寄った商品を売る市場が開かれるの。そこで私は自作のアクセサリーを売ったり、あと、買ってくれたお客さんのヘアメイクもしていたわ!」
フリーマーケットの進化版のようなものだろうか。嬉々として語るエミリアは愛らしかった。
「それはとっても楽しそうね。」
愛しさが滲み出る表情をしたサトミに、アレンはドキッとした。
アレンの方を振り向いたサトミと目が合うと、ハッとしたように目を背けた。
あら?と、エミリアは何か気付いたようにニヤリとして目を細めた。
サトミがふと目をやると、窓の外はもう真っ暗だ。