【2話】私の理想
重厚な扉を押し開くと、向こう側から大きな力で吸い寄せられるように、身体が自ずと前へ前へと進んだ。
《あなたの願い、しかと聞き届けました》
また、どこからともなく声が聞こえた。
あぁ......やっと"普通の女の子"になれるんだ。少なくとも、男と間違われて刺されるなんてのは二度と御免だ......。
自虐気味に苦笑しているうち、やがて意識が薄れていった。
《システム管理ページへ、ようこそ》
ピコン!という着信音のような音で目が覚めた。
目の前にはゲームの操作画面のような光景が広がっている。
空中に画面が浮いている、と表現すればいいのだろうか。画面は半透明で向こう側が透けて見えており、タッチしても指が通り抜けてしまいそうだ。
興味津々といった様子でまじまじと画面を眺めていると、画面が切り替わった。
《スタイルを選んでください》
どうやらまだ夢の中のようだ。
そう理解しないと、目の前で起こっている出来事に脳の処理速度が追いつきそうにない。
待てよ?これって…
聡美はある記憶に辿り着いた。
昔プレイしたゲームで見た、アバター作成画面を思い出した。そうだ、これは確かにその画面と同じだ。
そのゲームではいろんなパーツなどを選択することでアバターを作成し、アバターに自分の名をつけて操作し物語を進めていくのだ。
だとすると、今作成を迫られているこのアバターは、私の"次の人生用のアバター"なんじゃない?
我ながら適応能力が高いな、と自画自賛しながら、表示された選択肢をジッと見た。
前世では、男として生きてきたような人生だったからこそ、ゲームをする時はいつもとびきり可愛らしい女の子に成り切った。
表示された5パターンの中で、最も身長が低いものを選んだ。
自分で来世を選べるのなら、前世とは正反対の自分になろうと思った。
《輪郭を選んでください》
これも、シュッとしていた自分とは正反対の、丸いラインが可愛らしいパターンを選んだ。
《目の形を選んでください》
切れ長の涼しげな目は男装の際、男キャラの目を成形しやすく、割と嫌いではなかった。
しかしこちらも前世からは想像もつかなかった姿を目指し、クリッとした丸みのあるパターンを選ぶ。
同じ調子で、自分とは正反対のパターンを選んだ。小さな鼻。端をキュッと結んだ小さな口。私には似合わないと諦めてきた、憧れのロングヘア......。
最後の項目まで選択し終わると、
《本当にこれで終わりますか》
と表示された。
完成形のプレビューとして表示されたアバターは、過去の自分とは何もかも正反対で、描いていた"理想の女の子"像そのものだった。
迷いなく《はい》を選択すると、再び眠気に襲われた。