【16話/11月13日】笑顔
「っとその前に…。」
サトミは手を止めた。
「本当にこのそばかす、消しちゃって良いの?御伽話のヒロインみたいでとってもチャーミングよ?」
「はい……………。お願いしますっ!」
少女は瞼をぎゅっと閉じた。
その言葉を聞いたサトミは、ニヤリと口角を上げた。
「よしっ、それじゃあ任せなさい!」
先ほどのペンのようなものを取り出し、黄色いテクスチャをゆっくりと塗り広げた。
「このペンでそばかすが消えるんですか?」
「ふふ、これは先が筆ペンになっている"コンシーラー"よ。」
「コン…シーラー……?」
「えぇ、あなたはさっき、ファンデーションを使って消そうとしていたわね?」
はい、と少女が頷いた。
「ファンデーションとコンシーラーでは、"カバー力"が違うのよ。」
「カバー力…。」
「そう。ファンデーションと違って、コンシーラーは…そうね。」
どこからともなくホワイトボードを取り出し、図解しながら説明を続けた。
「そばかすを消そうと、さっきはファンデーションを何度も塗り重ねていたでしょ?」
「……!!そうなんです。ちょっと薄くはなったけど、肌色がかなり濃くなって、顔色が悪くなるばかりで。」
「それは、ファンデーションは細かな肌悩みを解決するためのコスメじゃないからなの。」
えっ!という声が今にも聞こえそうな表情をしている。
「もちろんファンデーションも重要で、肌の色ムラ、それにそばかすやシミなどを均一にする役割を果たしてくれるわ。」
少女はメモをとり始めた。
「でもそばかすのような肌悩みには、もっと最適な子が居るの。」
「それがこの、コンシーラーなんですねっ!」
「That's right!コンシーラーはより狭い範囲の肌の悩みを解決するために使うものなの。」
少女もサトミにつられ、段々とノリノリになってきた。
「中でもこのリキッドタイプのコンシーラーは柔らかいテクスチャで、そばかすのような比較的広範囲のカバーに向いているの。」
「柔らかい方が良いんですか?」
「うーん、それは適材適所ね。硬いテクスチャはカバー力がより高いけど、広範囲に塗るとひび割れてしまうことがあるの。」
なるほど、と追加でメモしている。
「先生、これが黄色なのには意味があるんでしょうか?」
「良い質問です。コンシーラーは色も沢山あるの。その中でも黄色は、肌色と茶色っぽいそばかすの中間にあたる色だから、そばかすを消すのに向いてるの。」
ほぇーっ、と感心している。
サトミはホワイトボードをどこへやら戻し、メイクを再開した。
「さて、完成よ!」
仕上げのパウダーをはたき、サトミはフーッと袖で自分の額を拭った。そして少女に鏡を差し出した。
「見て。」
「………信じられない。」
「どうです?お嬢さん。」
「本当にありがとうございます…!!」
晴れやかな表情の少女の顔から、そばかすは無くなっていた。
私はそのままで御伽話のヒロインみたいに可愛いと思ったんだけど………本人がこの笑顔なら、これで良かったのかな。
ふふ、と少女の笑顔につられて口元が緩んだ。
あーっ!と時計を見て声を上げた。サトミは学食に一緒に行くため、エントランスでエミリアと待ち合わせしていたことを思い出したのだ。
「あなたも学食、一緒にどうかな?」
「是非ご一緒させてください!」
「よしっ、そうと決まれば早く行こう!」
2人は足早に部屋を後にした。