【11話/11月8日更新】動揺
振り返ると、アレンが立っていた。
「やぁ、サトミも眠れないの?」
「えぇ。アレンも?」
そうなんだよ、と言いながら扉を閉めた。
寒いのか、先の尖った革靴をパタパタとさせながら足踏みしている。
ふふっ、と思わず笑みを溢した。
「ん?何か可笑しいことでもあった?」
アレンが不思議そうな顔をした。
「ううん、アレンったらペンギンみたいで可愛いんだもの。」
「ペンギンを知ってるのかい?!」
大好きな冒険譚について語る小さな子どものように、アレンは瞳を輝かせた。
はっと我に帰ったのか、失礼、と咳払いをした。
サトミは自分が知るペンギンについて話した。
アレンはニコニコしながらその話を聞き、そして色々なペンギンの豆知識を披露した。こちらの世界でも、彼らは空を飛ぶことはないようだ。
「ごめんね、失礼だったかしらね。こんなに物知りでかっこいい男の子に、可愛いって言うのは。」
何気なく発した言葉だった。聡美として生きていた頃は、周囲の男の子たちから男扱いされていたために、何の意識もしていなかった。
「か、かっこいい…?」
アレンは少し下を向いたまま聞き返した。
「??…えぇ、王子様みたいよ?スッと通った鼻筋に、あどけなさと青年の雰囲気が混ざったような猫目。光が当たる場所でよく見ると、深い青色に見える瞳が綺麗だし…………」
「わーーーーーーーーーーー!!!ストップ!もういいから!」
顔を上げ、慌ててサトミを制止した。
照れているのか両目をギュッと閉じ、顔は真っ赤だった。そんな表情を隠すように、大きな手のひらに顔を埋めていた。
そんな反応をされるとは予想もしていなかったサトミは呆気にとられた。
そっか。今は美少女アバターの姿に生まれ変わってたんだ。可愛い子に褒められたら照れちゃうよね。
こんな反応、聡美の頃にはされたことなかったな…。チクっと切ない気持ちになった。
「…サトミは褒め上手だね」
ようやく顔の前から手を退けたアレンが、少し恥ずかしそうに口を開いた。
「本当に思ったことを言っただけよ、王子様?」
ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべながらアレンの顔を覗き込んだ。
もーーーーーーっ!とアレンはまた顔を赤らめ、しゃがみ込んだ。
「サトミ、面白がってるだろ!」
うん、ごめんなさい。ちょっと、いやかなり面白い。
くすくすと笑いながらふと空に目をやった。
「わぁぁぁぁぁぁ!」
空には満点の星空が広がっていた。
っくしょん!
「大丈夫?今夜はかなり冷え込んでるね」
そう言いながら、自分に掛けていたブランケットをサトミの肩に掛けた。
「えっ!悪いわよ、こんな…アレンが寒いじゃない。」
あ…少女漫画でこんなシーン見たことあるな。
自分で言いながら思った。
「僕は商談のために野営することもあるからね。暑さや寒さには慣れてるし大丈夫だよ!」
ぽん!と自分の胸を拳で叩きながらウインクして見せた。
じゃあ…と、お言葉に甘えることにした。
それから2人はしばらく、星空を眺めた。
サトミは先程の出来事を、前世での自分と比較していた。
ブランケット…嬉しかったな。女の子ってこんな気持ちなんだ。(前世も一応女の子ではあったんだけれども。)
女の子扱いを生まれて初めて…一度死んでいるけど、生きてきた記憶の中で、初めてされた。
聡美の頃、男扱いされていた頃の私には、あんな素敵なことは起こり得なかったなぁ。
いやいや、今世はこんな美少女に生まれ変わったんだから、うじうじしてないで…今を楽しまないとね!
切ない気分になったが、切り替えようと努めた。
きっとまだこの身体の自分に慣れていないせいだな、と心の中で苦笑した。
少し浮かない表情をしているサトミに気付き、アレンはそれが気に掛かった。
11話から一話あたりの分量を増やすことにしました!
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