【1話】扉の向こうへ!
目を覚ますと、ふわふわとした感覚に包まれていた。
そうか......私は死んだのね......。
家族も恋人も居らず、残してきた人は居ないとは言え、悔いはあった。
今週末に参加していたはずの、コスプレイヤーが集まるイベント。それに参加できなかったことだ。
ここ数日は寝る間も惜しんで衣装作りに精を出していたのに、誰にも見せられないままになるとは......。
それにしても、段々と腹が立ってきた。
前世のラストシーンに思いを馳せる。
「ぼ......僕の天使に近づくな......」
すぐ後ろから囁くような声が聞こえ、声の主の方に振り返った。
......なんだこれは。
腹部に包丁が刺さっていた。無論、私の腹部だ。どさっと音を立てて倒れると、一緒に歩いていた友人が叫んだ。
「きゃああああああああああ!!聡美!!」
「さ......さとみ......?こいつは男じゃないのか......?君を惑わす悪魔じゃないのか......?」
フードを被った男が震えながら言う。
......状況が理解できた。どうやら私はフードの男......おそらく友人のストーカーか何かだろう。彼に、男に間違えられたようだ。それも、友人の彼氏か何かだと。
確かに私は男顔で、180センチ近い長身ゆえに、男と間違われることも多い人生だった。
しかしまさか、それが原因で刺されるなんて......。
「誰が男だーーーー!!」
怒りと共に回想から戻ってきた。
このふわふわとした空間、やはり私は天に召されてしまったらしい。
全く。男顔で長身、趣味のコスプレでは男役をしていたとは言え、男に間違われて人生を終えてしまうとは......。それなら男に産まれた方がよかったのではないか。
ぶつぶつと文句を言っていると、上空から光が差し込み、羽の生えた......そう。生きていた頃に想像していたままの姿の、天使が現れた。
天使に導かれるまま進んで行くと、大きな白い扉の前にたどり着いた。
《扉を開き、次なる人生へお進みなさい》
神様の声だろうか。どこからともなく声が聞こえた。
死後の世界について考えたことはあったが、こんなに早く次の人生を歩むことになるとは。
聡美は好奇心旺盛な性格であった。そのため、先ほど最期を迎えた時の記憶による恐怖よりも、この"いかにも感"のある天界らしき空間と転生システムに心を躍らせていたのだ。
よし!と気合を入れ、勢いよく扉を開いた。
どうか、どうか次は、夢にまで見た"女の子像"を満喫できる人生が待っていますように。