人生ファスト映画
病院のベッドの上で家族に見守られながら息を引き取った私は、気が付いたら椅子に腰かけ、目の前には事務机とPCが置かれている知らない部屋にいました。この殺風景な空間が天国……あるいは地獄なのでしょうか?
「どうも、長い人生お疲れさまでした」
「ひっ」
いつの間にか背後に現れていた大男に声を掛けられ、ぎょっとしました。
「私、ゴズメーズと申します。ここに来られた皆様のアシスタント係を担当しております。時間は有限ですので、早速ですが説明に移らせていただきます……そちらの画面に現在表示されているのは、佐藤様が送ってきた人生の全てです」
状況が飲み込めない私に構わず淡々と話し続けるゴズメーズに少しイラっとしましたが、ディスプレイに移る赤ん坊が目に映るとすっかりそちらに気を取られてしまいました。これは、確かに両親から見せてもらったアルバムの写真にそっくりです。
「下部のシークバーをスライドさせることであなたの30年間の好きな場面を表示できます。編集機能でトリミングやエフェクトの追加もできます。これから1時間で、今までの人生を5分間にまとめていただくのが、あなたに課せらた仕事……失礼、過労死なさった佐藤様には禁句だったでしょうか」
「いえお構いなく……その動画は何に使われるんですか?」
「それはお答えできない規則となっておりますので」
却って気持ちを逆撫でするような謎の気遣い、納期と仕事量の明らかな不釣り合い、30年の人生を5分にまとめろという冒涜的な仕事内容の全てをスルーして一番気掛かりなことを質問できたのは、これまでブラック企業で鍛えられてきたおかげだと思います。
肝心の問いかけの答えはありませんでしたが、それこそ解答のようなもの。おそらくは死後の裁きの材料に使われるのでしょう。5分という時間にまとめさせるのは判断時間の短縮というだけではなく、どんなシーンを重要視するかという姿勢を確認するためだと思われます。
「分かりました」
返事をしてすぐに作業に取り掛かります。当然自分の善行だけをピックアップするのは愚の骨頂と言えるでしょう。かといって罪を犯している場面だけを集めるのも卑屈で偽善的な印象を与えかねません。ここはバランスを重視した配分が大事ですね。さらに家族や友人との絆を育むシーンや汗水たらして必死に働くシーンも忘れずに加えて……。
「……できました」
見事、納期の5分前には編集作業を終えることができました。見たか! 社畜の底力!!
「早かったですね。それでは投稿のボタンをクリックしてください」
「はい……」
緊張しつつも、かなりの自信作を仕上げることができたのでそこまで不安はありません。あれだけの作品ならきっと閻魔様もそれなりの評価を……。
「うわあ、これは酷いな……」
手元のスマホを見ながら顔をしかめるゴズメーズの言葉にハッと振り返りました。まさか、アップロードされた私の動画を観た反応じゃありませんよね。そんな馬鹿なことは……。
「別に我々は激渋ドキュメンタリーを観たいわけじゃないんですよねえ。もっと視聴者をワクワク楽しませてくれる展開を期待していたんですが、なんだか地味な絵面ばっかりだし、かといって凝ったエフェクトを使うわけでもないし。昨日のY〇uTuberの動画は最高だったのに。やっぱり子供のなりたい職業ランキング上位とただの会社員を比較しちゃだめなのかなあ……ほら、見て下さいこの評価」
先程までの丁寧な言葉遣いはどこへ行ったのか、ボロクソにけなされて既に心が折れそうになっている私に突き付けられた画面を恐る恐る確認すると……。
「高評価2……低評価……19000……」
「これじゃあ、来世は良くてセミってとこですかね~」
「はあ!? おかしいでしょう!! なんで編集した人生の面白さで来世を決められなくちゃいけないんですか!!」
堪忍袋の緒が爆散した私は、ゴズメーズにブチ切れました。
「そうは言われましてもねえ。私達だって毎日ただ皆様を裁き続けるのに飽きてしまったんですよ。ひたすら同じ作業を繰り返すのって疲れるでしょう? 何より、あなた自身の意志で好きに生きて、その一生を自由に編集した結果が面白くないって、一番の人生への冒涜だと思いません?」
ニヤニヤ笑うゴズメーズ……そして何も言い返せない私。
悔しくて、腹が立って、思わず絶叫した瞬間……目が覚めました。
「えっ……夢……?」
ほっと胸をなでおろしたものの、心の中には漠然とした不安が残っていました。私の歩んできた人生は……これで合っているのでしょうか? 今度は編集さえ間違わなければ、面白い動画……価値のある一生として評価されるのでしょうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふふ……さあ、TAKE2はどうなるか楽しみですね」




