「雨と彼女と、彼女の涙。」その四。
マネキンだった。
裸の胴体と首だけのマネキン。
それが彼女だった。
ぴとり。
ところどころ塗料が剥がれた彼女の頬を、それが落ちて流れる。見上げると天井には黒いシミが広がっていて、そこから一滴、また一滴と雨が漏れていた。
息をこらして、彼女に近づく。
雨がまた落ちて、彼女の頬が濡れる。
ゆるやかにウェーブの掛かったセミロングの黒髪はつややかで、そこだけ時が止まっているようだ。
手を伸ばし、彼女の髪に触れたかったがやめた。
この朽ちた世界で、取り残されたものに触れるのは危険だ。触れた衝撃で壊れてしまうかもしれず、また「汚染」の可能性もわずかながら残っている。
それに、そこにずっと永く在り続けたものに干渉するのは、わたしの音師としての矜持に反する。
なにも動かさず。なにも変えない。
音師がするのはこの地上に残された音を録り、それを地下で待つひと達に伝えること。
それだけだ。
ぴとり。
また天井から雨が落ちる。
ぴとり。
彼女の頬が濡れる。
彼女はまるで、泣いているようだった。
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