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「雨と彼女と、彼女の涙。」その一。
窓を開けると雨がきていた。
なので家を出た。
扉を締めて、鞄を肩に掛ける。ずしりと重い。濡らさないように気をつけながら傘を開き、屋根の外に出る。
するとぱらぱらと雨音が降ってきて、たちまち傘の下のわたしはいっぱいになった。
今日の雨はやさしい。
やわらかくくすぐるように包み込み、ささやいてくれる。
目を閉じて、身をゆだねる。
あるのは雨音と、わたしの心臓の鼓動だけ。
他にはなにもなくて、なにも聞こえない。
雨と、わたしだけの時間。
ようやく目を開けると、雨脚がすこし強くなっていた。
くたびれた靴の隙間からは雨が染み透っていたけれど、構わず歩き出す。鞄の中の録音機材とカメラさえなければ、本当は濡れるのだって嫌いじゃない。
だんだんと強くなる雨脚に置いていかれないように足を動かす。目の前の水たまりをすべて通り、濡れて触れあいながら。
わたしは雨を録りに出かける。
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