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ホームルーム(1)

ストーリーが浮かび次第書いていきます。

教室に入ると10人全員が黙って席に座って待っていた。教室はそんなに広いわけではないが、たった10人だけとなると少し寂しい見た目である。プレハブの無機質な教室に、村で作られた温かみある木製の机と椅子はやたらと浮いて見えた。生徒たちの目の前には電子黒板と教卓、奥にはモニターの大きなコンピュータが置かれている。内地の学校しか行ったことのない進一にとっては新鮮な光景である。

(さて、何から始めたらよいものやら。)

 彼には教員としての経験は過去一度もない。出征する前に大学で教職の資格をとっていたため、たまたまこの高校の仕事に就くことになった。よって、生徒指導云々はずぶの素人である。本人的にもそこらへんには無頓着で、とりあえず生徒の前で勉強を教えればよいだろうと高を括っていた。それだけに、いざやるとなると、このようなまどろっこしい生徒との交流が必要であるということが分かってしまい、後々になって後悔をした。しかし、やりはじめたものは仕方ない。なんとかうまくこの青年たちを卒業まで導かねばならないだろう。

「こんにちは。私がこれから君たちの担当教員となる館山進一である。よろしくどうぞ。」

 進一は簡単な自己紹介をし、今後の日程等をさらさらと話した。生徒たちの目は真剣そのもので、緊張の色が取れない。これはなかなか大変そうである。

「カリキュラムとしては以上だ。これから君たちは共に勉強をしていく仲間である。互いに助け合い、切磋琢磨していくように。」

 一通り話し終わった後、今度は生徒たちに自己紹介をしてもらうことにした。名前と顔はすでに把握しているが、声が聞きたかった。

 奥の席の生徒から順に自己紹介が始まった。進一が受け持つこの教室は、生徒10名、うち4人が日本人、3人が大陸人、3人がエルフで、男子6人女子4人である。ほぼ全員が村の国民小中学校卒業の生徒である。もちろんこの人種配分は自然なものではなく、人為的なものである。この村、いや、この星では3つの人種がなんとか共生を図って暮らしているのである。

「ハジメ・ムカイです。あ、みんなもう知っとると思うけど、向井酒造ちゅうのがうちです。親父が高校くらいは出とけっちゅうんでここに入学しました。将来はうちを継ぐつもりです。よろしくお願いします。」

 小柄な体に似つかわしいキンキンとした高い声であいさつしたハジメに、ニコニコしながら横で拍手を送ったのは、ランダル・フルフォードである。彼らは国民小中学校から仲が良いようだ。

「ランダル・フルフォードです。みんな親父のリーマン・フルフォードの名前はよく聞くと思うけど、リーマンの息子です。でも将来は親父の名前より、俺の名前をよく聞くことになると思う。いや、そうなるつもりです。よろしくお願いします。」

 ランダルは金色の前髪をさっと掻き上げながら言った。長身で整ったその顔には、自信が満ち満ちていた。

「マサミ・ヒラノと申します。よろしくお願いいたします。」

 元気な二人を横目に、やや気だるげに話したマサミは、村唯一の医療施設である平野病院の院長の娘である。黒髪は襟足で切りそろえられたショートボブで、いかにも気の強そうな顔である。彼女の顔を初めて見たとき、進一はかつて自宅の近くに住んでいた気性の荒い野良猫を思い出した。

「ジャコブ・アイシンです。しっかり勉強してお国のため、村のためになる人間になろう思うとります。よろしくお願いすもす。」

 ジャコブは村にある鍛冶屋の三男坊である。巨漢と野太い声は、さながらオークを思わせる姿であるが、外見に反して国民小中学校での成績は非常に優秀であり、奨学金を使ってここに入学している。共通語に独特のなまりがある。

「ミラ・フルフォードです。将来は平野先生の様なお医者様になりたいと思っています。みなさん、そして館山先生、これからどうぞよろしくお願いいたします。」

 長い髪が地面につくほど深々とお辞儀をしたミラは、ランダルの妹だ。ランダルと同じ金色の髪がさらさらとセーラー服の上を流れていく。

「フルフォードというと、ランダルと君は兄弟であるのか?」

多少は生徒と会話をしておこうと思い進一は既知の事実について質問してみた。ミラは見るからにしっかりしているし、兄と同じく度胸がありそうだ。

「はい、そうでございます。先生。ランダルと私は双子ですが、生まれるのが兄の方が早かったので私は妹でございます。家では私の方が上でございますけどね。」

ミラは兄を見ていたずらっぽく微笑みながら言った。

「ミラ!余計なことを言うな!」

ランダルはミラを睨みつけて言った。

「あら、お兄様。家ではミラちゃんと呼んでくださるのに、ここでは呼び捨てですのね。」

「……。」

兄は赤面しては唇をへの字に曲げた。どうやら兄妹仲は良いようだ。彼らの掛け合いに周りは一気に和やかな雰囲気になった。がそれも長くは続かなかった。

「松岡勇治です。ここに入学したのは高卒資格を取るためです。出身は京都ブロックです。よろしくお願いします。」

皆が共通語で自己紹介をしていた中、流ちょうな日本語で言い放つかのような自己紹介が飛び出し、進一を含め一同が呆気に取られた。彼はこの生徒の中では珍しく、村の国民小中学校を出ていない。昨年まで内地の学校に通っており、両親の仕事の関係でこの村に越してきたのである。

 「なかなか立派な日本語だ。流石である。」

和やかな雰囲気をぶち壊しにされたことに内心苦々しく思いながらも、進一は彼を誉めておいた。ユウジはぶすっとした顔で、眼は明後日の方向を向いていた。少し気まずい間が流れた後、7人目の生徒が自己紹介を始めた。

 「マヒト・キラと言います。陸軍士官学校を目指しています。よろしくお願いします。」

先ほどのユウジの情報自己紹介を意識してか、最後の挨拶は日本語だった。彼は村の孤児院出身でロンデルバルク人と大陸人のハーフらしい。金髪碧眼で、ロンデルバルク人特有の感情の読めない顔立ちをしているが、喋り方はどことなく人懐っこい印象である。成績優秀者でアイシンと同じく奨学金入学である。

 「軍人になりたいのか…。そうか…。」

元兵士の進一にとっては少し複雑な心境だった。

 残るはエルフの3人のみ、となった時、教室のドアを一人の女性がノックした。


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