6章:オレの義妹が戦い続ける必要なんてない(4)
オレが円形にくりぬいた床は、SF映画やゲームに出てくる浮遊する台座のように、ゆっくりと下りていく。
一気に複数階層をぶち抜いてもよかったのだが、人を巻き込むのは本意ではないからな。
一つ下のフロアーは、高さにして優に二階分はあった。
長くのびた通路の左右には、かなり大柄の大人がすっぽり入れるサイズのポッドが並んでいる。
その数は五十を超えるだろうか。
ポッドには濁った液体がつまっており、近づいてみても、中はよく見えない。
某ゾンビゲームなら、割れて中からモンスターが出て来そうな雰囲気だ。
さすがに、対ヴァリアントの組織内で、ヴァリアントが襲って来るなんてことは――
そこまで考えたところで、近くのポッドが1つ割れた。
中から現れたのは、身長2メートルを超える筋肉隆々の男。
頭には角。
オーガ……いや、鬼か!
発せられる魔力量から察するに、ダークヴァルキリーの日本神話系版といったところか。
どこかで捕らえて、閉じ込めておいたのだろう。
見たところ、身体に大きな欠損はない。
ザコとはいえ、無傷で捕らえるとは、なかなか腕のよい者が組織内にいるようだ。
上の層で戦った自称エリートは、井の中の蛙か。
「低鬼!? なんで本部内にいるの!?」
双葉も知らされていないのか。
『様』付けで呼ばれているとはいえ、一戦闘員として扱われているのだろう。
そんな彼女に知らされていないということは、何か隠す理由があるということだ。
もしかすると、ただの研究素材ではないかもしれない。
このタイミングで低鬼が覚醒させられたというのも、意図的だろうしな。
オレに少し痛い目をみせてやろうというのだろう。
よく見ると、低鬼には首輪のようなものがついていて、そこから微かな魔力を感じる。
あれで何かしらの制御をするのか。
どちらかというと、緊急時の対処用にも見える。
通常の物理攻撃が効かない相手だということを考えると、なかなかに手の込んだアイテムだと思われるが。
さて、考察はこんなところにして、さっさと倒そう。
バトルショーを見せるためにここにやってきたわけではないのだ。
オレは剣を無造作にぶら下げたまま、低鬼に近づいていく。
「お兄ちゃんあぶないよ! 二人で協力して逃げ――」
双葉が最後まで言い終わるより早く、オレの剣は低鬼の首を斬り飛ばした後、その全身をバラバラに切り裂いていた。
肉片が地面に落ちるより早く、その全てを炎で焼き尽くす。
炎が建物に燃え移らないよう、周囲を魔力壁で覆うことも忘れない。
「え……? 一瞬で……?」
「驚いているところ悪いが、次が来るぞ」
オレは一足飛びに、双葉の隣へと戻る。
その瞬間、五十以上あるポッドが全て砕け、中から低鬼たちがのそりと現れた。
全部使うのかよ!
長はずいぶんとご立腹らしい。
これでオレが死ねば、特異点とやらの研究はできなくなるとわかっているのだろうか。
とはいえ、この程度の戦力で、オレに傷一つでもつけられると考えているなら、見る目がないと言わざるをえないな。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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