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5章:ドラッグ オン ヴァリアント(31)

 スサノオの首を落とした帯は、火線を残して、瞬時に巻き取られていく。

 その先にいたのは――


「杉田……あんた、ヴァリアントだったのか」


 帯の形に変化した杉田の左腕が、瞬時に普通の人間のものに戻る。

 しかし、シャツの二の腕から先が引きちぎられている事実が、スサノオの首を撥ねたのが彼であると物語っている。


 何度も出会った彼から、ヴァリアントの気配がしたことは一度もなかった。

 それに今も、左手以外は人間そのものだ。


「いいや、僕は人間だよ」


 そう言った杉田は、ぶすぶすと焼け焦げ始めた左手に、銀のブレスレットをはめた。

 むき出しになった左腕には、『マチ子』と何度も上から彫り直した傷跡がある。


「左腕にヴァリアントを移植した……?」


 銀のブレスレットは、封印具か。

 そんなことが可能なのか?

 人間どうしでも腕の移植は難しいのに、別の生き物と言ってもよいヴァリアントだぞ。

 たとえ可能だとしても、まともな神経とは思えない。

 その証拠に、すぐ封印しなおさなければ、腕が焼け始めていた。

 移植元としたヴァリアントの能力に負けているのだろう。


「一目でわかるんだね。そうさ、おかげでコイツの細胞に浸食された僕の内臓はボロボロだけどね」

「なんでそこまで……」

「そいつを殺すためだ」


 そう言ってスサノオを睨んだ杉田の声は、憎しみにまみれたものだった。


「なぜ俺を?」


 首だけになったスサノオが、目だけをこちらに向けた。

 その切り口がチロチロと燃え、肉の焼ける異臭を放っている。


「そうだな、教えてやろう。自分のやったことを知ってから死ね」


 杉田は左手に刻まれた名前をそっとなぞり、語り始めた。


「僕には高校から付き合っていた彼女がいてね。すごく幸せだったよ。

 医者として社会に出た後、忙しくてなかなか会う時間がとれない中、婚約をしたんだ。

 そして結婚式の前日、彼女は死んだ。

 お前らヴァリアントに喰われたんだ!」


 強く握りしめた杉田の右手から、赤い血が滴り落ちる。


「僕がかけつけた時、彼女を喰ったヤツが立ち去るところだった。

 その後ろ姿を見た。

 ヤツの手には、櫛の描かれた金の懐中時計がぶらさがっていた」


 それって……スサノオが持ってた懐中時計か?


「毎朝名前を腕に彫り続けた。その痛みで彼女のことを忘れないように。

 『彼』と取り引きをした後もな」


 彼、というのは杉田にヴァリアントの腕を移植したヤツのことだろう。


「学校でソイツが懐中時計を持っているのを見つけた時は衝撃だったよ。

 これでやっと彼女の仇がうてるとね。

 クスリをばらまいてまで、おびき出したかいがあった」


「そうか……お前か! お前がクシナダを!」


 首と両腕を失ったスサノオの胴体が起き上がり、杉田を蹴り飛ばした。


 神楽殿の入口へと吹き飛んだ杉田を受け止めたのは、見知らぬ若い男……いや、どこかで見覚えがある。

 たしか、身体検査で杉田と一緒にいた看護師だ。


 杉田とスサノオは、互いに仇だと思っている?

 杉田の恋人をスサノオが喰い、スサノオをおびき出すために杉田がクスリをばらまき、それが原因でスサノオの妻が死んだということか。

 一応、筋は通っている……か?


 いや……おかしいぞ。

 いくら杉田が毎日体に彼女の名前を彫ったとしても、彼女のことを覚えすぎている。


 杉田はスサノオの後ろ姿を見ただけだと言った。

 戦ったわけでもない。

 いくら復讐に燃えていたとしても、これまでの連中のことを考えると、自分の意思で覚えていられるようなものではないはずだ。

 記憶定着の魔法を使い続けているオレですら、加古川のことは記憶から薄れてきている。

 由依にいたっては、話題を振ってみても思い出せないようだった。


 いくらヴァリアントの腕を移植されたとはいえ、記憶の定着なんてことが可能なのか?


「二人とも、復讐を果たせて満足ですか?」


 そう言ったのは杉田の背後に立つ看護師だ。

 愉悦に酔ったその口調に違和感を覚える間もなく、その手が杉田の腹を貫いた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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