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5章:ドラッグ オン ヴァリアント(14)

「おい由依、あんまり飲み物を――」

「えへへ……カズぅ……」


 遅かった。

 由依がオレの腕を大きな胸で挟みこみ、唇が触れそうなほど、顔を寄せてくる。


「もっとぴったりしたいにゃあ……」


 胸だけでなく、太腿も密着させ、腰に手をまわしてくる。

 これは理性がもたん。


 スサノオがヤマタノオロチを倒すとき、酒をのませたという神話が頭をよぎる。


 さっさと由依の解毒をしたいところだが、魔法を使えば探知される可能性がある。

 この室内にヴァリアントはいないようだが、隠密と探知に優れたヤツが近くに待機している可能性もあるからな。


「由依、キスしていいか?」

「ふぇ……つ、ついにカズがあたしのこと……いいよ……いっぱいして……」


 由依は頬を染め、とろんとした目でオレを見つめたあと、ゆっくり目を閉じた。

 まともな判断ができているとは思えないが、しょうがない。


 オレは由依と唇を重ね、舌を由依の口に入れる。

 そして、舌先からゆっくりと解毒魔法を由依の体内で発動させた。

 これなら、よほどのことがないかぎり、魔法の発動を感知できない。


「あふ……ん……」


 されるがままの由依は、ときおり体をビクんと跳ねさせ、甘い吐息を漏らす。


「ふぇ……え……ふぁっぇ!?」


 我に返り、目を開けた由依が、ぷるぷる震えている。


「(よく聞いてくれ。いいか、これから飲み物は一切飲むな)」


 オレはそっと唇を離し、由依を抱きしめつつ、彼女の耳に囁いた。


「え? いま、私、キス、して?」

「(混乱するのはわかるが、まわりを見ろ)」


 部屋の隅では男女が抱き合ったり、キスをしたり、胸を揉んだりと怪しい雰囲気になりつつある。


「え……でも……ふええ……」


 顔を真っ赤にした由依は混乱の極みだが、ここで暴れられるわけにはいかない。


「(こんな状況でキスしたのは謝るが、今はおちついてくれ)」

「謝ったりしなくていいし、嬉しかったのは……いや、ちがくて……」


 これはダメそうだな。


「(とにかく、飲み物にクスリが入れられてる)」

「(え……?)」


 クスリという単語を聞いて少し落ち着いた由依の体から力が抜けた。


「(どういうこと? 合法的なクスリで儲けてる人がいるんじゃないの?)」

「(まずは基本無料で配っておいて、客を作る方法かもな)」

「(基本……? なるほど、それはあるかもね)」


 基本無料という言い回しも、この頃はなかったか。


「へーいみんなー! 盛り上がってる-!!? AZUにゃんの登場だよー!」


 そこに登場したのは、ヘソ出しTシャツに、デニムのホットパンツ、後ろで束ねたロングヘアーをキャップの穴からだした元気そうなお姉さんだ。

 彼女が今回のメインゲストDJ、AZUさんらしい。

 ツインテールの似合いそうな名乗りだ。


「「「うおおおおお! AZUさああああん!」」」


 AZUにゃんって言ってるの自分だけじゃねえか。

 恥ずかしくないのだろうか。


 それはともかく、部屋の隅でいちゃつく男女と、DJブースのまわりで熱狂する連中に二極化した会場はカオスだ。


 さて、あのDJからかすかに漏れる魔力の波動……。

 おそらくヴァリアントなわけだが、どう出たものか。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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