5章:ドラッグ オン ヴァリアント(3)
「子供、できたのか?」
「いやあ、苦労したよ。なんせ、この体になってから『そういう気持ち』になれないからね。人間が開発した薬なんかを色々ためしたよ。そもそも僕達はほとんどの薬物自体を無効化できてしまうから……いや、ここで詳しい話は無用だね。とにかく、子供を作ること自体は成功したこともある」
スサノオは小さく息を吐き、続ける。
ヴァリアントの性事情とか、あまり生々しい話は聞きたくないんだが?
「生まれたのは、ただの人間の子供だったよ」
それはつまり、自分達の意思――本能と言い換えても良いが――で、子孫を残せないということだ。
彼の言う通り、全ての生物が子孫を残すことを存在意義としているなら、ヴァリアントだけがそうではないということになる。
子孫を残すことがどれほど素晴らしいことなのか、オレにはよくわからない。
だが、全ての生物ができることを、自分達だけができないとわかったとき、それはどれほどの想いとなるのか。
想像することしかできない。
オレも子供なんて作ったことないけどな。
「喰べてしまうのも忍びないから、こっそり人間に育てさせたけどね」
「そんな感情はあるんだな」
「……ないよ。ヴァリアントになる前の自分を思い出して、感傷に浸ってみただけさ」
この悲しげな表情も作り物なのか、本心なのかはわからない。
だが彼がこういった話をしてみたいという願望を持っていたことは、信じてもよいのかもしれない。
「種を残せないことに絶望するのか?」
「いいや、想像していたほどのショックはなかったね。ただ、ヴァリアントという存在に、より興味は湧いたよ。だから、僕達を倒せる力を持った人間が、僕達をどう思うのかも気になるのさ」
「なるほどな。今の話を信じるなら、ただの天敵でしかないな」
「そうなるよね。じゃあキミは、僕達を絶滅させるかい?」
「いいや」
「へえ……それは何故だい?」
スサノオは興味深そうに、少しだけ身を乗り出した。
「クマもライオンも、『人間を殺せる、喰う』という意味では同じだからだよ。捕食者側が種を残せないなんてことは、喰われる側からすると関係ない」
異常に増えまくるというなら話は別だが。
「でも、クマと違って、僕達は人しか喰わない。生き残るためには人を喰うしかない」
「そうかもしれないが、世界中ではたくさんの人間が獣に喰われている。そんなことを気にかけて生活してるヤツは少ないさ」
「17歳にしては、思っていたよりずっとドライだね」
「そのかわり、オレの周囲に手をだすようなヤツは絶対許さない。人間を恐れたクマは、人里にそうそう下りてこないだろ。
あんたらに良いヤツもいるだとか、喰うためだからしかたない、だからできるだけ殺したくないなんてことを言うつもりはさらさらない。
何をどこまで殺すのか、その線引きの問題なだけだ」
「キミにはそれを言うだけの力があるようだしね」
「力があるなしの問題じゃない。殺しにくるならヤるしかないって話だ」
それも力がなければ、机上の空論だということはわかっているが。
「いやあ、面白かったよ。ありがとう。お礼に……そうだね、少なくとも僕はキミと白鳥君を喰べないと約束しよう」
「そうかよ」
オレだって、こんな会話をした相手を心から殺したいと思うようなバーサーカーではないのだ。
だが同時に、ヴァリアントが一方的に押しつけてくる約束を信じるようなバカでもないつもりだ。
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