22章:ヴァリアントスレイヤー(13)
SIDE カズ
――今だ! 双葉!
ヒミコが自身の魂を飛ばそうとしたその時、オレは双葉に魔力を飛ばした。
「なぜだ! なぜシスティーナの魔力が見つからぬ!」
黒刃の剣に貫かれたまま、ヒミコは焦りの声を上げた。
「言っただろ。オレのパートナーと仲間達は頼りになるって。今頃システィーナは双葉が展開した神域絶界の中さ」
「そんなはずはない! 全員魔力は底をついていたはずだ!」
「そうだよなあ。なんでだろうなあ」
種明かしをしてやる義理などない。
地上にヒミコの魔力の耐えられるような器は他にない。それだけシスティーナは特別なのだ。
さあ、これで本当に最後だ!
オレは剣を通して魔力をヒミコの体内へと送る!
「ぐあああああああああああ!」
「貴様だけでも! 貴様だけでもこの月に封印してくれるうううう!」
「いいぜ、付き合ってやるよ」
オレはさらに魔力を強めた。
「ぐあああああ! やめろやめろやめろ! 今ならまだ間に合う! 妾と手を組むのだ!」
「この期に及んで何を言うか!」
「くそおおおお! 妾の完璧な計画がこんな小僧にいいいい!」
ヒミコは魔力のすべてを再生と防御に使っているせいか、なかなかにしぶとい。
しかし、ヒミコの体の崩壊が急速に進み始めた。
神域絶界の展開に魔力を使い始めたのだ。
「後悔しろ! ナンバカズうぅぅっ!!」
絶叫とととにヒミコの体が紫の煙になって消え去った。
月の自転速度は戻り、あたりは静寂に包まれた。
また閉じ込められちまったな。
だが、ヒミコをあのままにはできない。
ここであいつを逃がしたら、かならずオレ達を狙ってくる。
オレはともかく、由依が狙われるのを常に護り続けるなんて不可能だ。
ならばこれでいい。
――よくないよ。
その時、オレの頭に懐かしい声が響いた。
――お前はこっちでもそうだっただろ。
異世界で共に戦い……死んでいった仲間たちの声だ。
――カズは私達の世界を救ってくれた。
声は黒刃の剣からだ。
死んだ彼らの魂を吸収し、オレの魔力に耐えられるまでに強くなった剣。
――今度はあなたが幸せになる番。
剣がその切っ先から崩れ、虹色の粒子となっていく。
粒子は神域絶界内に広がり、その輝きを増す。
視界が光で埋め尽くされた。
――由依さんを幸せにしてやんな。
――えー? それはちょっと妬けちゃうなあ。
――祝福してあげなよー。
――あんたが一番妬いてるくせに。
――そ、そんなこと……。
――じゃあな。長生きしろよ。
声が聞こえなくなると同時に、眼下に青い地球が広がっていた。
戻ってこられた……?
手に握っていたはずの剣は、跡形もなく消え去っている。
あいつらの微かな魔力を残して。
……帰ろう。
由依達が待つ場所へ。
オレが埋め立て地にできたクレーターの中心に降り立つと、そこにはみんなが待っていた。
「カズ!」
最初にかけよろうとしてよろけたのは由依だ。
オレは一瞬で由依に近づき、支えてやる。
「カズの魔力が急にきえちゃって……私、私ぃ……」
泣き崩れる由依をそっと抱きしめ、背中を擦る。
「大丈夫だ、由依」
お前より先に死んだりしない……だと、由依を護りきれないことになるか。
オレが先に死ぬと言うのも悲しませるだけだし。
「死ぬ時は一緒だ」
「ひゃう!?」
由依の涙が一瞬でひっこみ、真っ赤な顔でオレを見上げた。
まあね、恥ずかしいことを言っている自覚はあるよ。
でもさ、若い体と精神年齢のギャップにも慣れたんだ。
由依はずっと年下だからという意識もなくなった。
だったら、何も邪魔するものなんてないじゃないか。
「私! 私は? お兄ちゃん!」
「双葉も一緒だ」
ここで仲間外れになんてできるはずがない。
由依はちょっと不満げだけど。
「あの……私もいいですか……?」
美海も。
「私もかまいませんわよね?」
華鈴さんも。
「ついでにオレ達もいっとく?」
「邪魔しないの」
赤崎と青井さんも。
「私も、タイミングが合ったらお願いするわ」
冷泉さんも。
みんなに生きていてほしい。
「まつりも!」
鬼まつりも、まあ死ぬことはない。
「みんなが安心して暮らしていける世界を、オレが作るよ」
一周目とは違って、今のオレにはそれができるから。