22章:ヴァリアントスレイヤー(11) SIDE 由依
SIDE 由依
空中にいた私は、高速で迫る肩を踏み台にしつつ、後方へと跳ぶことで威力を相殺した。
しかし勢いを殺しきることはできず、数10メートル吹き飛ばされ、壁に着地する。
顔を上げると、ボスの追撃が来た。
すり抜けざま脇腹に蹴りを入れる。
けたたましい音と煙を立てて壁に突っ込んだボスの腹はぱっくりと避けている。
その傷はすぐにふさがってしまう。
やっぱりそうなるよね。
ボスの体からは、紫の煙が立ち上っている。
原料にした死体が消えているのだろう。
相手もそれほど長くは保たないのかもしれない。
問題は「それほど」というのがどれくらいなのかだ。
カズの言っていた「ヒミコはシスティーナさんの体を奪うかもしれない」というのが本当なら、こちらも時間がない。
双葉ちゃんはまだ戦えるほどは回復していないし、今彼女に魔力を使わせるわけにはいかない。
なので、一時撤退の選択肢も当然ない。
双葉ちゃんは壁に背を預け、静かに目を閉じて座っている。
少しでも魔力を回復するためだ。
これだけの敵意の中、私を信じて待ってくれている。
私に残された全てでやるしかない!
悲鳴を上げる体を奮い立たせ、ボスへと向かう。
巨体に似合わぬ拳を避け、その隙に周囲の低鬼を倒す。
双葉ちゃんの状態を考えると、低鬼を1匹も残すことはできない。
ならば先に倒すのはザコ!
攻撃を避け、蹴る。
蹴っては避ける。
両足に全ての魔力を集中している今、それ以外の部分に一撃でも貰えば私の体は粉々に砕けるだろう。
ボスもそれがわかっているのか、細かく速い攻撃を繰り出してくる。
見える!
カズとの訓練に比べれば速くない!
そうして、全ての低鬼を倒した私はボスと1対1になった。
その巨体はすでに10メートルを超えている。
巨大な拳が地面をえぐりながら迫って来る。
私は地面、拳、腕と跳び、ボスの太い首を斬り飛ばす。
しかしボスは全く気にしたそぶりもなく動いている。
予想はしていたけど、本体の首を撥ねないと倒せないってことだよね。
カズなら魔力探知で見つけられたかもしれないけど、今の私には無理だ。
グングニルからの魔力供給に意識をさいている上に、ボスの全身に行き渡った魔力のせいで本体がどこにあるかわからなくなっている。
だったらもう全部バラバラにするしかない!
ありったけの魔力で自分の体を竜巻のように動かす。
「やあああああああ!」
竜巻に巻き込まれたボスの体が細切れになっていく。
振るわれる拳も、繰り出される蹴り脚も、全てを粉みじんにしていく。
ボスは紫の煙となって消え去っった。
やった……。
なんとかなった……。
私はその場で仰向けに倒れた。
目だけで双葉ちゃんを見ると、弱々しく微笑んでいた。
よろよろと立ち上がった双葉ちゃんが、システィーナさんの座る玉座へと向かう。
あとはカズの合図を待つだけ。
そう思った瞬間、壁が開き、先程のヴァリアントと同タイプが20体現れた。