22章:ヴァリアントスレイヤー(10) SIDE 由依
「はぁ……はぁ……」
ヒミコによる大爆発から逃れた私と双葉ちゃんは、システィーナさんの救出に向かっていた。
他のみんなは美海ちゃんに任せてある。
双葉ちゃんに肩を貸す私も、魔力切れでふらふらだ。
やってきたのはとある大きな神社の地下。
ドーム球場がすっぽり入るのではないかという板張りの空間であり、さながら和風の巨大闘技場だ。
奥には玉座がある。
そこに座るのはシスティーナさん。
私達を見ても何の反応もない。
冷たい瞳で虚空を見つめている。
私とシスティーナさんの間には、1000を超える低鬼と呼ばれるヴァリアント達。
「システィーナさん!」
私の呼びかけにシスティーナさんの指先がピクリと動いた。
大丈夫! 彼女の心はきっとまだ死んでない!
「双葉ちゃん、ちょっと待っててね」
私は双葉ちゃんを床に下ろすと、意識を黒タイツ(グングニル)に集中させる。
カズに付与してもらった新能力を使う!
大気に散らばる僅かな魔力が、グングニルを通じて私の中に入ってくる。
カズの魔力の方のように気持ち良くはない。
異物感がすごい。
気を抜くと体の中で魔力が暴れそうになる。
長時間の発動は私の集中力がもたない。
それでも今だけなんとかなれば!
私は地面を蹴り、低鬼に足払いを一閃。
グングニルから生まれた魔力の刃が、100体以上の低鬼の足を斬り飛ばした。
そのまま回転の勢いを殺さず、腰の高さで後ろ回し蹴り。
再び生まれた魔力の刃が、倒れて行く低鬼の低くなった頭をまとめて斬り飛ばした。
低鬼達はそのまま倒れ伏す。
……おかしい。
死んだヴァリアントは紫の煙になって消えるはず。
それどころか、転がった死体がずるずると一箇所に集まっていく。
その先には、手足がひょろりと長い一体のヴァリアントがいる。
身長は2メートルほどだろうか。
動きはゆったりとしているし、魔力もたいして感じられない。
その足元に集まった死体が吸収されていく。
そういうことね……。
低鬼を倒せばあいつが強くなる。
だけど倒さないわけないはいかない。
アイツは低鬼を盾にするように位置を取っているので、先にボスを倒すことができない。
システィーナさんを助けるためには、ここにいるヴァリアントを倒さなきゃ。
大丈夫。
簡単な話だよ。
邪魔な低鬼をあらかた倒して、パワーアップしたボスを倒す。
それだけだ。
カズはあのヒミコと戦っているんだもの。
私だってやらなきゃ!
低鬼の脚を、腕を、首を撥ねる。
撥ねる、撥ねる、撥ねる!
魔力はグングニルを通じて供給されるけれど、慣れない技術を使って、双葉ちゃんを庇いながらの戦いは、私の体力と集中力を削いでいく。
残り100体をきったあたりで、ボスが動いた。
身長5メートルを超える巨人と化したボスのタックルはあまりに高速だった。
時速200kmは軽く超えていただろう。
警戒していたつもりだったけれど、反応が遅れてしまった。
避けきれない!