22章:ヴァリアントスレイヤー(9)
「あれを止めるか。数年に及ぶ妾の魔力を……。だが、ただではすむまい?」
たしかに、かなりの魔力を持っていかれた。
「今のうちにトドメといかせてもらおう」
ヒミコを囲むように、100を超える大小様々な魔法陣が展開した。
「この埋立地にいる限り、妾の魔力は無限である!」
この土地を魔力の貯蔵庫にしていたか。
「これは周りを気にしてる場合じゃないかもな」
「うむ?」
オレはこれまで抑えていた魔力の『一部』を開放した。
再び、大地が鳴動する。
「くっ……まだこれほどの魔力を残していたとは……」
驚くヒミコに掌を向け、魔力を集中する。
「妾の動きを封じるだと!?」
「目的は封じることじゃないさ」
ヒミコを拘束したまま、一緒に上空へと昇る。
「地面に叩きつけるつもりか? その程度で妾をどうにかできるとでも?」
もちろん、そんなことは思ってない。
オレはそのままぐんぐん昇って行く。
着いたのは月の表面だ。
「貴様にはどこまでも驚かされる」
「驚くのはこれからかもしれないぜ?」
オレ達は魔力で会話する。
「宇宙空間での生命維持にかなりの魔力を使っておるだろう? 人間は不便よな」
「この程度、本気を出した時の魔力からすると誤差さ」
「強がりを」
鼻で笑うヒミコを尻目に、オレは抑えていた魔力の全てを開放した。
「な、な……」
ヒミコは驚き、戸惑う。
同時に、オレの魔力を受け、月がその自転速度を少しずつ加速させていく。
これが地球上で全力を出せない理由だ。
異世界でやらかした時は、世界の時間が早まり、地軸の傾きが少しずれてしまった。
「人間の……いや、神々すら凌駕しうる魔力だと……!? どうやってこれほどの力を!?」
「ブラックリーマン時代に苦労をしたからなあ!」
「わけのわからんことを!」
オレは黒刃の剣を構え、流星のごとく突進した。
その切っ先が、ヒミコの展開した千枚以上の結界を砕いていく。
「こんなばかなあ!」
ヒミコの魔力が高まり、同時にその体も巨大化していく。
「RPGのラスボスかよ!」
あいにく変身を待ってやるほどお人好しじゃない。
全力全開にしたオレの魔力が、背中から翼のような形で迸る。
「滅びろ! 黄泉の国へと還るがいい!」
剣がヒミコの体を貫いた。
「ぐ……まだだ……」
素手で刀身を握るヒミコ。
オレは剣ぎを通じてヒミコの体内に魔力を送り込む。
「ぐああああああ! く……くふふ……」
「何がおかしい?」
「たしかに貴様は強い。この世の誰よりも強いかもしれぬ。妾の残りの魔力全てで、神域絶界に閉じ込めてくれる、千年はとけぬぞ!」
「またかよ。芸がないなあ」
「フタバの術で多少の時間を作ったとて、妾の全魔力と引き替えならば、貴様を数瞬とどめることくらいはできる!」
「あんたが滅びたら、ヴァリアントはまたばらばらなんじゃないか?」
「妾は滅びぬ!」
「システィーナに魂を移すからか?」
「……気付いておったか」
「そりゃあな」
本当はいくつか考えていた選択肢のうちの一つだが、みなまで言うまい。
「く……。だが、止める術などあるまい! 貴様を月に閉じ込めると同時に、妾の魂はシスティーナへと移る! ヴァリアントの鎖からも解き放たれ、宿敵はおらぬ。妾の天下である!」
「本当にそううまくいくと思ってるのか?」
「なに?」
「オレには最高に頼りになるパートナーと仲間達がいるんだよ」