22章:ヴァリアントスレイヤー(5) SIDE 由依
SIDE 由依
視界の中心がぼんやりと光り、カズの背中が見えた。
こちらを振り返ったカズが、はにかんでいる。
少し会えなかっただけなのに、何十年ぶりな気がする。
「カズ! 帰ってきて! カズ!」
私は思わず叫んでいた。
「あなたがいないと世界が……ううん、そんなことどうでもいい。会いたい……会いたいよ! カズ!」
私がそう叫ぶと、視界が元に戻った。
全身から魔力があふれ出し、魔法陣に吸われていく。
「さすが由依さん。一番乗りですね」
「どういうこと? 双葉ちゃん」
「絆の強さは想いの強さ。それだけ、由依さんのお兄ちゃんへの想いが強かったということです」
「え、えへへ……そうかな……」
恥ずかしいことを言うなあ。
まんざらでもないけどさ。
周囲を見てみると、他の6人は白目を剥いて虚空を見つめながらぶつぶつ呟いている。
すぐに正気をとり戻したのは、鬼瓦さんと華鈴さんだ。
そして、赤崎君、青井さんと続く。
残るは冷泉さんだ。
「そんな……詩織……私、なんで詩織のことを忘れて……しおりいいぃぃぃぃ……」
やがて彼女も慟哭とともに戻って来た。
「なんでこんな……ひどいよ……ひどい……」
彼女の親友にして仕事仲間だった陽山詩織さんは、ヒミコにより『種』を植え付けられ、強制的にヴァリアントにさせられた。
そして、彼女の目の前で死んだ。
そのことを思い出したのだろう。
「難波さん……帰ってきて。ヒミコを倒して……」
顔を上げた冷泉さんの表情は、憎しみと悲しみで歪んでいた。
「揃いましたね。ちょっとキツいですけど、我慢してくださいね!」
双葉ちゃんが手で印を結ぶと、残っていた魔力が絞りとられた。
膝からがくりと力が抜ける。
他のみんなも同じらしく、その場にへたりこんでいる。
貧血をおこした時のように視界が白くなり、吐き気がこみ上げてくる。
魔法陣の輝きが増し、目を開けていられなくなる。
ザ……ザザ……。
『みん……な……』
やがて、ノイズと供にカズの声が聞こえてきた。
「カズ!?」
「もう少し……もう少しです……でも……魔力が足りない……」
双葉ちゃんの目が真っ赤な充血し、血の涙が流れる。
無理しないで……なんて言えない。
私が双葉ちゃんなら、何を言われても止めないもの。
なら、私は私のできることをする。
この儀式に魔力が必要というのなら、もっていけ! 私の全ての魔力!
「はああああああああ!」
私はスタジオが光で満たされるほど、残された魔力を……いや、それ以上の魔力を命を削って放出した。
「ごぼっ――」
肺からこみ上げてきた何かが、口内を鉄の味に染める。
死ぬかもしれない。
それでも私はカズを助ける!
一瞬驚きの表情でこちらを見た双葉ちゃんは、小さく頷き、儀式に集中する。
ピキ……ピキキキ――
周囲の空間にヒビが入り始めた。
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