21章:トゥルーヴァリアントショー(5)
たった一度の軽いリハーサルが終わると、スタジオの視線は、完全にシスティーナに釘付けだった。
「ほんとに演技は初めて……?」
特に剃村は、化け物でも見るかのような表情だ。
「はい」
「おいおい、自信なくすぜ」
やや引きつった笑みを浮かべた剃村は、自身がCMに出ているペットボトル入りの緑茶に口をつけた。
めちゃくちゃ売れてる俳優なのに、こんなところでも気を使ってるのか。
単に好きなだけかもしれないけど。
「よーしすぐ本番だ! リハーサルをそのまま本番でもよかったくらいだぜばかやろう!」
監督がばしばしとメガホンを叩いたその時、近くにヴァリアントの気配が出現した。
こんなところで!?
しかも、急に現れたということは、瞬間移動してきたか、気配を隠すのをやめたか。
システィーナも気付いたらしく、オレと同じ方に視線を送り、顔が曇った。
大丈夫、オレがなんとかするから撮影を続けろ。
目でそうシスティーナに伝えると、彼女は少し迷った後、心配そうに頷いた。
オレは自身の気配を殺しながら、ヴァリアントの気配へと向かう。
そこは、小さめの撮影スタジオだった。
今は撮影は行われていないらしく、照明は落とされている。
スタジオの隅から、ばりっ、ばりっと骨を砕くような音が聞こえる。
同時に、血と屍肉の臭いが鼻をつく。
「あんだぁ? 人は来ねえはずじゃなかったか?」
床に這いつくばっていた男が、首を180°こちらに向けた。
口から血と肉片がぼたりと落ちる。
目を赤く光らせた男は、三十代半ばくらいだろうか。
清掃業者のつなぎを着ている。
本当に業者なのか、どこかで制服だけ手に入れたのかは知らないが。
喰われているのは、テレビ局のスタッフだろう。
近くに社員証が落ちているものの、それをぶらさげるはずの首は既にない。
わざわざこんなところにヴァリアント?
人を喰うにしても、もっと人目のつかないところがありそうなものだが……。
「人はこねえはず」というセリフも気にはなる。
ヴァリアントに備わっている人払いの能力のことを言っている?
そのわりに、伝聞調だが……いや、今はそれより目の前のこいつをなんとかしないといけない。
周囲にあるカメラには全てカバーがかかっており、電源が入っている様子もない。
人が来る前にすませよう。
念のため、魔法で自分の体を透明にしておく。
オレは黒刃の剣を出現させ、ヴァリアントとの間合いを瞬時につめた。
そのまま、ヴァリアントの首を刎ねる。
なんてことのない相手だったが、テレビ局の内部、しかも日中に食事というのが気にな――おいおい、なんでぞろそろやってくるんだよ。
スタジオの奥から、20人ほどの男女が現れた。
死体を見ても表情を変えることはない。
中にはカメラを構えている者もいか、そのカメラは、姿を消しているはずのオレの方を正確に捉えてくる。
よく見ると、手とカメラが融合している。
何かの能力だろうか。
オレの位置はバレていると思ったほうがいいな。
あのカメラ、録画はできるのだろうか?
だとしたら面倒だ。
その時、突如として周囲から一切の音が消えた。
神域絶界!?
閉じ込められたか!
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