21章:トゥルーヴァリアントショー(4)
SIDE カズ
システィーナがスカウトを受けてから半月。
「あわなかったらやめちゃえばいいしネ」なんて言っていた彼女だったが、一瞬で人気女優の仲間入りを果たしていた。
テレビCMに出る女優がインフルエンザになったとかで、代役をすることになったらしい。
なんと、CMの放送は翌日からだったそうで、延期は不可能だったとのこと。
どんな現場だよと思わなくもないが、それが事務所所属一週間にして、システィーナが大人気となったきっかけだった。
CMは大手飲料メーカーの新商品だった。
CMが流れはじめた途端、「あの美人は誰だ」とテレビ局に電話での問い合わせが殺到したらしい。
電話というところが、ネSNS普及前ならではのエピソードである。
そんなオレは、システィーナとタクシーに乗り、事務所へ向かっていた。
もちろんタクシー代は事務所もち。
友達を撮影現場の見学に連れてきても良いと許可がおりたそうて、オレに白羽の矢が立ったのた。
行きたいと言った覚えはないのだが、一緒に来てほしいと頼まれてしまった。
初めての映画撮影で不安もあるのだろう。
オレにできることなどなさそうだが、いるだけで彼女が少しでもリラックスできるならそれでいい。
撮影現場は都内のとあるスタジオだった。
セットを見た感じ、舞台は日本のマンションの一室といったところか。
現場ではスタッフが慌ただしく走り回っている。
システィーナのメイクが終わるまで、オレはぽつんと待ちぼうけである。
「このセット、別のドラマの使いまわしじゃねえか馬鹿野郎」
ディレクターズチェアに座ってぼやいているのは……み、南野監督!?
国際的な映画祭で賞をとった巨匠じゃないか。
この時代でも十分以上の有名人だぞ。
それをこんな急にキャスティングできるもんなのか?
あっちにいるのは俳優の剃村ヒロシか?
おいおい、大作映画でも作る気かよ。
近くで台本をぱらぱらめくっているスタッフの手元を、視線だけで覗き込む。
ほんの数秒だったが、オレの動体視力なら十分に内容を理解できた。
不登校になった帰国子女の女子高生を、教師が説得に来るという話らしい。
システィーナ演じる女子高生が、自分の殻を破るところがクライマックスだ。
ん……?
教師がハンマーで部屋の壁を破ってきたところに、セーラー服姿のヒロインが機関銃で応戦するのか?
どんな映画だよ。
演じきれるのか心配になってきたぞ。
そんな感じで時間を潰していると、スタジオの空気が変わった。
これまでの雑多な喧騒が一瞬静まり、スタジオの入口に視線が集中していく。
そこには、セーラー服姿のシスティーナがいた。
神々しさすら感じる美しさに、その場にいた全員が息を呑む。
年齢的には女子大生なシスティーナではあるが、そんなことを気にする者はいない。
「こりゃあ……ねじ込もうとするのもわかるなばかやろう……」
南野監督が握っていたメガホンをぽろりと床に落とした。
「問題は演技だけどね」
そうぼやいた剃村だったが、すぐにその不安は払拭される……どころが、絶賛で迎えられた。
システィーナのやつ、演技上手すぎない?
雪山でオレに凄んで見せた時もやるなと思ったけど、もしかして才能あるんだろうか。
記憶はなくても、イタリア時代の生活が基礎になっているのかもしれない。
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