21章:トゥルーヴァリアントショー(3) SIDE システィーナ
SIDE システィーナ
事務所への所属を決めた翌日。
私はマネージャーさんに連れられて、事務所の廊下を歩いていた。
事務所の社長に私を紹介してくれるのだとか。
「新人を社長に推すなんてめったにないんだけどね。びびっときちゃったんだよ」
でっぷりと張ったお腹をスーツで締め付けたマネージャーさんは、少し後ろをついていくこちらを振り返らず、よく響く通る渋い声で言った。
三十代前半らしいのだが、その恰幅の良さと、頭の半分を覆う白髪と濃いクマのせいで、もっと年上に見える。
そんな疲れと不摂生の塊のような風防ながらも、笑顔を絶やさないのは、この仕事が好きだからかもしれない。
何日も家に帰っていないと言っていたが、奥さんはどう思っているのだろう……。
社長室にいたのは、真っ赤に染めた赤い髪を後ろになでつけたおじ様だった。
マネージャーさんからの情報によると、五十歳近いはずなのだけど、十五は若く見える。
皮の椅子に深く腰掛けた社長は、こちらを見るなり「へぇ……」と呟いた。
何に驚いたのだろう?
「ほら、挨拶して」
私はマネージャーさんに促されるまま、簡単に自己紹介。
「システィーナデス。よろしくお願いしまス」
「…………。それだけ!? 社長と直接会えるなんてそうそうないんだから、アピールしてよ、アッピーィル!」
「あ、はぁ……。エエト……特技は語学と刃物でス」
マネージャーさんには悪いけど、こういう時の自己アピールなんて、何をしていいかわからない。
「は、刃物……? 天然キャラは他に売れてるのがいるからいらないよ?」
「いえ、本当にトクイですよ?」
「ええ……?」
マネージャーさんとそんなやりとりをしている間、社長は笑顔でじっと私の顔を見つめている。
なんかウソくさいなあ、この人の笑顔。
「ねえキミ、来月末にウチ単独スポンサーの映画が公開されるよね」
「はい社長。私が担当ですが、それがなにか?」
急に私と関係ない話題を始める社長さん。
別にいいんだけどね。
「そりゃちょうどいい。5分くらいのショートムービーを同時上映でくっつけてよ」
「今からですか!? わ、わかりました。関係各所との調整は大変そうですが、やりとげてみせます!」
「うん、よろしくねー」
すごい軽い感じだけど、とても大変なことなんじゃない?
「それでそのショートムービーというのは、誰が撮ったものなんでしょう? ネームバリューによっては、宣伝も差し替えませんと――」
「今から撮るんだよ」
「は?」
「システィーナを主役で、今から撮るんだ」
「え!? 私が主役!?」
急に何を言うの、この人。
「今からなんて……無理ですよ!」
「人は揃えてやるから」
「で、ですが……」
「ですが?」
「いえ! やらせてください!」
マネージャージャーさんの返事に、社長さんは満足そうに頷くと、手で払うような動作をした。
社長室を出たマネージャーさんは、「とんでもないことだよこれは! 過去にない大抜擢だ! やはり僕の勘はただしかった!」と、まだ売れたわけでもないのに興奮していた。
たいへんなことなんだろうな、というのは私にもわかる。
でも、なぜなんだろう?
きまぐれ?
それとも何か理由があるのだろうか。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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