21章:トゥルーヴァリアントショー(2)
「さっき買い物に行ったとき、スカウトをされたのです」
システィーナは困惑した表情のまま、少し目を伏せた。
「どこの組織にだ?」
システィーナが戦えるようになったことがバレたのか? 早すぎる。
「いいえ、女優にならないカと」
システィーナが取り出したのは、一枚の名刺だった。
「芸能事務所コロコロ坂……?」
芸能関係に疎いオレですら聞いたことのある名前だ。
スカウトって……芸能人の?
「すごーい! コロコロ坂って言ったら、超王手事務所じゃないてすか! ねえ由依さん!」
双葉がパンと手を叩いた。
「うん、あそこは日本のメディア系で唯一、白鳥の息がかかってないのよね。それで成功できるのだからすごい事務所だわ」
「すごいの意味が私が思ってたのとちょっとちがいますが……まあいいか。受けるんですか? システィーナさん」
「今夜連絡をくれるそうですが、改めて断ろうと思いまス」
「なんでー? もったいないですよ」
食いつきのいい双葉だが、芸能界に憧れでもあるのだろうか?
「戦うときめたカラ」
静かに、真剣に言うシスティーナを笑う者は、ここにはいない。
由依も、双葉も、使命のために自分の人生を捧げる決意をした経験があるからだ。
最初の人生でオレは、知らず知らずのうちに彼女達に護られていた。
「オレは受けてもいいと思うけどな。システィーナが受けたいと思うならだけど」
だからオレはこう言う。
「由依も双葉も、もしやりたいことがあるならやって欲しい。オレはさ、知らない誰かの命より、お前らの人生の方が大事なんだ」
由依とシスティーナは一瞬困ったような顔をし、双葉は表情を変えずにじっとオレを見る。
「好きなことを何もできない人生なんて、死んでるのと一緒だよ。オレをみんなにそんな人生は送ってほしくない。オレだって少しは強くなったからさ、それくらいはさせてやれるよ」
食っていくためには働かなきゃならない。
でも、それだけの人生がつらいものだってのは、最初の人生で嫌というほど味わった。
仕事をしている時間が何より楽しいというなら別だけどさ。
「もちろん、『使命』が一番やりたいことだっていうなら何も言わない。どうだ?」
3人から注目されたシスティーナは、まだ迷っているようだ。
「すぐに決める必要はないさ」
「うん……」
上の空になってしまったシスティーナをメイドの仕事にもどし、訓練は続けられた。
そして、その日の夕食。
「ちょっとやって……みようカナ」
システィーナは少しテレたように、微笑んで見せた。
「じゃあ、あたしがファン第一号になりますね!」
そう言って喜ぶ双葉にシスティーナは、
「き、気が早いデス」
と頬を染めるのだった。
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